ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

Well-being経営に役立つ心理的資本

村上 隆晃

要旨
  • 企業経営の分野では近年従業員のwell-beingと生産性の向上の好循環が注目を集めるようになっている。
  • 例えば、厚生労働省の雇用政策研究会ではwell-beingと生産性向上の好循環を実現することが、個々人の豊かで健康的な職業人生を実現し、人口減少下にあって日本経済を維持・発展させるために重要と指摘している。
  • 経営学や心理学等の学問領域でも従業員のモチベーションやエンゲージメントといった「心」の部分を積極的な方向へマネジメントしていくメカニズムへの関心が高まっている。そうした研究の一つとして「職場環境において人がこうありたいと思う目標に向けて自律的かつ前向きに向かおうとするモチベーションを生み出す心理的力量」を指す心理的資本という概念が注目されている。
  • 心理的資本は測定可能、すなわち管理可能であり、強化可能、業績への影響力がある指標として開発され、ホープ(Hope)、エフィカシー(Efficacy)、レジリエンス(Resilience)、オプティミズム(Optimism)といった4つの要素から構成される。この4つの要素の頭文字を取って、心理的資本は「the HERO within(自分の中にいる英雄)」と表現されることもある。
  • 従業員の心理的資本の増加は、従業員満足度やエンゲージメント、well-beingの向上などポジティブな効果をもたらす一方、変化に対する冷笑的な態度や退職意向、ストレス/不安といったネガティブな感情を抑制する方向に機能する。その結果、自発的に組織に貢献する行動が増えるなどポジティブな行動の増加に繋がり、個人の業績も向上する。心理的資本の増加が企業や組織全体で行われた場合には、売上高の増加や利益率の向上といった企業や組織の業績の改善に繋がっていくものと考えられる。
  • 心理的資本については、米国で研究が先行しており、強化のための小規模な介入研修も開発されてきた。また、介入研修の前後で心理的資本が3%程度増加することが実証研究の結果として報告されている。
  • 心理的資本に限らず、社員の「心」を積極的な方向へマネジメントすることの重要性は今後も増していくと考えられ、企業や組織などでの活用が拡大していく可能性がある。従業員の自律的な成長をマネジメントする概念の研究については、働く人、一人ひとりのwell-beingと生産性の向上の好循環を実現するために重要であり、幅広く注視していくことが必要と考えられる。
目次

1. はじめに~企業経営の分野で注目が高まるwell-being

企業経営の分野では近年従業員のwell-beingと生産性の向上の好循環が注目を集めるようになっている。例えば、厚生労働省の雇用政策研究会では「人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて」(2019年)と題する報告書をまとめている。同報告書では、well-beingと生産性向上の好循環を実現することが、個々人の豊かで健康的な職業人生を実現し、人口減少下にあって日本経済を維持・発展させるために重要と指摘している。

当研究所でも「今、『幸せ』『well-being(ウェルビーイング)』の実現を組織のミッションに据え、商品・サービスやリソースがそれらにどう貢献できるのかという視点を持つ企業や自治体、団体が増えている」「その背景には(中略)主観的に幸せな人が多い組織では、生産性や売り上げ、創造性などが高く、一株当たりの利益が高いことや離職率が低いことなどが指摘されている」「つまり、組織のメンバーが幸せを体感していることは、組織の持続性を高め、成長を促す」ことを指摘している(宮木(2021))。

そうした中、経営学や心理学等の学問領域でも従業員のスキルアップはもちろん重要であるが、それ以上に従業員のモチベーションやエンゲージメント(注1)といった「心」の部分を積極的な方向へマネジメントしていくメカニズムへの関心が高まっている。この分野では、例えば、内発的動機づけ(注2)やトータル・モチベーション(ToMo)(注3)、PERMA(注4)など多くの研究がなされてきた。そうした研究の一つとして、近年、米国の著名な経営学の研究者であるフレッド・ルーサンス博士(ネブラスカ大学名誉教授)を中心として開発された、働く人の仕事に対する自信や困難を乗り越える力を表す「心理的資本」という概念が注目されている(ルーサンスら(2020))(注5)。心理的資本については、ToMoやPERMAなどと同様に定量化でき、コントロール可能で、行動変容や業績に繋がる指標として開発されたところにポイントがある。厚生労働省「令和元年版 労働経済白書」(2019年)においても、働きがい(ワーク・エンゲージメント)を促進する要因として、就業条件、対人関係、仕事の進め方などの仕事に関する環境整備と並んで、個人の持つ心理的資本の強化が重要と指摘されており、今回のレポートで取り上げる。

以上を踏まえ、本稿の全体構成は以下の通りとした。

本章の後、2章では心理的資本についてその概念や測定法を示す。3章では心理的資本の従業員の心理的態度、行動、業績への影響を示す。4章では心理的資本を強化する介入研修とその効果を確認し、5章で全体をまとめる。

2. 心理的資本とは

(1)心理的資本の概念

心理的資本は前述したとおり、働く人の仕事に対する自信や困難を乗り越える力を指す。

心理的資本は測定可能、すなわち管理可能であり、強化可能、業績への影響力がある指標として開発され、ホープ(Hope)、エフィカシー(Efficacy)、レジリエンス(Resilience)、オプティミズム(Optimism)といった4つの要素から構成される(図表1)(注6)。この4つの要素の頭文字を取って、心理的資本は「the HERO within(自分の中にいる英雄)」と表現されることもある。ここでは、心理的資本の概念を理解するため、それぞれの構成要素について説明する。

図表 1 心理的資本の構成要素
図表 1 心理的資本の構成要素

ア.ホープ

ホープとは、目標に向かうエネルギーと目標を達成するための計画を持ち、成功できるという感覚に基づいた積極的な動機付状態を指す。

個人が現実的でやりがいのある目標と期待を設定し、自己裁量権や目標達成に向かうエネルギー、自分ごと化の認識を通じて、それらの目標に手を伸ばすことができると感じる心理状態である。初期の計画が達成困難と判明すれば、計画を修正してでもやり遂げるという、ものの考え方も含まれる。

イ.エフィカシー

エフィカシーとは、必要な動機付けや集中力、行動方針を動員し、特定のタスクを正常に実行するための自分の能力に対する信念を指す。

エフィカシーの高い人は、自分自身に高い目標を設定し、難しいタスクを自ら選択する、挑戦を歓迎する、やる気にあふれている、目標を達成するために努力を惜しまない、障害に直面したときも粘り強く取り組む、といった特徴があるとされる。

ウ.レジリエンス

レジリエンスとは、逆境や対立、失敗などから回復したり、跳ね返したりする能力を指す。

困難のほか、昇進や責任の増大などポジティブな変化にも対応して、前に進もうと自身を動機づけていく力である。困難を克服して乗り越えると、さらに力を増してゆく上昇スパイラル効果もあるとされる。

エ.オプティミズム

心理的資本におけるオプティミズムは、ある特定の事象が起きた理由をポジティブ・ネガティブ、また現在・未来のどちらに帰属させるかという物事の見方・捉え方に注目しており、現在および未来における成功をポジティブな要因に結び付ける力を指す。また、ポジティブな出来事に対しては内的要因(自分の能力や努力など)に帰属させる一方、ネガティブな出来事については、外的要因(一時的な経営環境の悪化など)に帰属させる力でもある。

例えば、自分におきた不運な出来事について、悪い出来事がいつまでも未来永劫続くと捉える人はペシミズム(悲観性)を持ち、反対に「今だけ」などと限定的に捉える人はオプティミズムを持つとされる。

こうした構成要素からすると、心理的資本とは、「目標や成功に向かう力をモチベートし、先への見通しと成功の可能性をポジティブに評価する総合的な力量である」(注7) ともいえる。

(2)心理的資本の測定方法

心理的資本は企業の生産性向上に活用するため、測定可能で強化可能な指標として開発されており、企業の従業員に対してアンケート調査を行うことで測定する。

アンケート調査では、心理的資本の4つの構成要素についてそれぞれ6問、合計24問の質問を聴取する(図表2)。

それぞれの質問について、1~6点の6点尺度で回答させ、合計点数を計算する 。

合計した点数が高ければ、高いほど、心理的資本が大きいと評価される。

図表 2 心理的資本の測定方法(イメージ)
図表 2 心理的資本の測定方法(イメージ)

3. 心理的資本が従業員の心理的態度や行動へ与える影響

心理的資本については、従業員の心理的態度や行動、業績の改善に関する多くの実証研究が行われている。Aveyら(2011)では、それらをまとめて定量的な検証を行うメタ分析(注8)が実施されているので紹介する。

(1)心理的資本が従業員の心理的態度や行動に及ぼす影響についての仮説

心理的資本の研究において、心理的資本が従業員の心理的態度や行動、業績へ与える影響としては次のような仮説が検証されている(図表3)。

心理的資本が影響する心理的態度に関する変数をみると、心理的資本が向上することで企業や組織にとって好ましい従業員満足度(ES)やエンゲージメント、well-beingが促進される(+の影響)一方、好ましくない態度である冷笑的態度、退職意向、ストレス/不安が抑制される(-の影響)。

同様に心理的資本が影響する行動と業績についてみると、好ましい行動である組織市民行動(注9)や個人の業績が促進され、好ましくない行動である逸脱行動(注10)が抑制される。

図表 3 心理的資本が従業員の態度・行動や業績に与える影響の仮説
図表 3 心理的資本が従業員の態度・行動や業績に与える影響の仮説

(2)心理的資本と従業員の心理的態度、行動、業績に関するメタ分析による実証結果

本項では、前項の仮説に関するメタ分析による実証結果について、心理的態度と行動・業績に分けて説明する。

ア.心理的資本と従業員の心理的態度に関するメタ分析結果

まず、心理的資本と従業員の好ましい心理的態度の相関についてAveyら(2011)をみると、従業員満足度(相関係数:0.5)、エンゲージメント(相関係数:0.5)、well-being(相関係数:0.6)との間に正の相関がみられる(図表4)。逆に心理的資本と好ましくない心理的態度である冷笑的態度(相関係数:▲0.5)、退職意向(相関係数:▲0.3)、ストレス/不安(相関係数:▲0.3)との間には負の相関がみられる。

図表 4 心理的資本と従業員の態度に関する相関関係
図表 4 心理的資本と従業員の態度に関する相関関係

イ.心理的資本と従業員の行動、業績に関するメタ分析結果

同じく前掲書で心理的資本と従業員の好ましい行動の相関をみると、心理的資本と組織市民行動(相関係数:0.5)、個人の業績(相関係数:0.3)との間には正の相関がみられる(図表5)。逆に心理的資本と好ましくない行動である逸脱行動(相関係数:▲0.4)との間には、負の相関がみられる。

図表 5 心理的資本と従業員の行動に関する相関関係
図表 5 心理的資本と従業員の行動に関する相関関係

ウ.心理的資本の実証研究に関するまとめ

心理的資本と個人の態度、行動、業績に関するメタ分析の結果をまとめると、図表6のようになる。

ある従業員の心理的資本の増加は、その従業員の従業員満足度やエンゲージメント、well-beingの向上などポジティブな効果をもたらす一方、変化に対する冷笑的な態度や退職意向、ストレス/不安といったネガティブな感情を抑制する方向に機能する。その結果、組織市民行動の増加などポジティブな行動の増加に繋がり、個人の業績も向上する。心理的資本の増加が企業や組織全体で行われた場合には、売上高の増加や利益率の向上といった企業や組織の業績の改善に繋がっていくものと考えられる。

図表 6 心理的資本と従業員の心理的態度・行動の関係整理
図表 6 心理的資本と従業員の心理的態度・行動の関係整理

4. 心理的資本を強化するには~心理的資本の介入研修

心理的資本については、強化可能な指標を目指してきた経緯があり、心理的資本強化のための小規模な介入研修(参加人数や使用する研修資料の量によるが、概ね1~3時間程度の研修)も開発されてきた。また、研修の開発とともに研修が心理的資本にもたらす効果に関する実証研究も並行して行われてきた。

図表7は介入研修の内容と、研修が心理的資本の各要素に与えると想定される効果を整理したものである。

(1)心理的資本に対する介入研修の内容と想定される効果

ア.介入研修の内容

介入研修は大きく2つのセッションから構成されている。

一つ目は目標達成力開発セッションであり、①職場において参加者各自が達成したい目標の設定から始まり、②目標達成のための選択肢を数多く考案、③グループワークなども通じて現実的な選択肢に絞り込み、④目標達成に対する潜在的な障害を洗い出し、その克服方法を検討、といった流れである。

二つ目はレジリエンス開発セッションであり、①最近仕事で経験した困難な事態を想起、②困難への対処法(これがレジリエンスの発揮方法となる)を書き出し、③講師が理想的な困難への対処法について事例を用いて説明、④グループワークで各自の対処法について検討し、様々な視点からの困難の対処法を認知、といった流れである。

イ.介入研修が心理的資本の各要素に与える影響

介入研修が心理的資本の各要素に対して想定される効果の概要は図表7の右側に記されている通りであるが、以下で説明する。

図表 7 介入研修の内容と心理的資本・各要素への効果
図表 7 介入研修の内容と心理的資本・各要素への効果

(ア)「ホープ」面への効果

目標達成力開発セッションを完了した参加者は、個人的に価値のある目標を自分事として認識し、障害を克服する手段を含む複数の達成方法を準備できるようになる。本セッション全体を通して、このプロセスを職場で再現できるようになることが常に意識づけられている。

(イ)「エフィカシー」面への効果

目標達成力開発セッションの中で参加者は、以下の3つのエフィカシーに関する開発効果を経験する。その結果、参加者は自信を引き出され、目標達成に向けた計画を実行に移す原動力を与えられると想定されている。

a.疑似的な達成経験

目標達成力開発セッションにおいて参加者は複数の達成方法の考案や現実的な達成方法への絞り込み、達成感を感じられる中間目標の設定を行う。その結果、参加者は疑似的な達成経験を感じ、エフィカシーの開発に繋がる。

b.肯定的なフィードバック

a.の疑似的な達成経験を参加者が感じているときに、介入研修のファシリテーターが肯定的なフィードバックを行うことで、参加者は目標達成に向けて前向きな感情を抱くようになる。

c.観察による代理体験

自身の模擬的な達成経験に加えて、他の参加者の達成経験を何度も観察することで、「自分にもできるのではないか」というエフィカシーが生み出される。

(ウ)「レジリエンス」面への効果

レジリエンス開発セッションでは、参加者が仕事上の困難がもたらす実際の影響やコントロールできる可能性、取りうる選択肢を冷静に考える経験をすることが想定されている。その結果、参加者は困難からすぐに立ち直るだけでなく、最初よりも高いレジリエンスの水準を達成できる可能性がある。

(エ)「オプティミズム」面への効果

目標達成力開発セッションにおいて、参加者は考えうる限りの潜在的な障害を想定し、その影響を最小限に抑える代替的な達成方法を考え出し、最悪の事態にも対応できる準備を行うことを経験する。その結果、参加者は現実を直視しながら、未来に対して楽観的な期待を持つようになり、物事のポジティブ的な面に目を向ける姿勢を身に着けることができると想定されている。

(2)介入研修効果に関する実証研究の事例

介入研修は、心理的資本の4つの要素すべてに対して影響するように設計されている。この介入研修の効果について、Luthansら(2006)の中で複数の実証研究の結果が紹介されている。

一つは、MBAコースの学生を実験群と対照群に無作為に割り当てる研究プログラムによるものである。これらの被験者の心理的資本はアンケート調査により、介入研修の前後に測定されている。まず、実験群には1時間の介入研修を実施した。この介入研修は実験群の心理的資本を増加させた(約3%)とのことである。他方対照群では、関連のない介入研修(砂漠でのサバイバル研修)を実施したところ、心理的資本には変化がなかったことが報告されている。

この他、企業で働く人に対する介入研修の有効性を検証するため、実務に携わるマネージャーを対象とした実証研究も行われている。当該研究では、あらゆるタイプの企業から2時間の介入研修を受けるボランティアを募って、対象者を集めた。彼らの介入研修前後の心理的資本の変化は、MBAコースの学生とほぼ同じ(約3%)で有意に増加したとのことである。

また、非常に大規模なハイテク製造業企業における継続的な研究も実施されている。エンジニアリング部門のマネージャーに対して、2.5時間の介入研修を行ったところ、他の研究に比べ、測定された心理的資本の増加幅はわずかに低かったが、介入研修により有意な増加が生じていたことが報告されている。

このように心理的資本については、介入研修を実施することで、一定の増加効果が得られるということが複数の実証研究の事例を基に報告されている。

5. おわりに

今回のレポートでは、従業員のモチベーションやエンゲージメントといった「心」の部分を積極的な方向へマネジメントする指標としての心理的資本について紹介してきた。

心理的資本については、広範な産業の様々な職層の従業員を対象とした実証分析が積み重ねられており、測定可能、すなわちマネジメント可能であり、従業員満足度やエンゲージメント、well-beingなど様々な経路を通じて、個人の業績の向上にまで繋がることが報告されている。また、介入研修を実施することで強化可能という特徴についても、複数の実証分析を通じて肯定的な結果が示されている。

従業員の自律的な成長をマネジメントする概念については、心理的資本と並んで、ToMoやPERMAといった概念があると紹介したが、いずれも米国で開発されたものであり、日本企業への導入に当たっては、例えば指標自体を日本人に適合するように開発するなど、工夫が必要になると考えられる。

とはいえ、社員の「心」を積極的な方向へマネジメントすることの重要性は今後も増していくと考えられる。冒頭の「令和元年版 労働経済白書」のように働きがいを促進する要因として、心理的資本を重視する動きもみられる。また、心理的資本全体ではなくとも、レジリエンスなどの構成要素を強化する手法は、既にサービスとして提供されている事例(注11)が見られるように、企業や組織などでの活用が拡大していく可能性がある。

今回は心理的資本を題材として取り上げたが、ToMoやPERMAも含め、従業員が自らのありたい目標に対して前向きに向かおうとする、自律的な成長をマネジメントする概念の研究については、働く人、一人ひとりのwell-beingと生産性の向上の好循環を実現するために重要であり、幅広く注視していくことが必要と考えられる。

以 上

【注釈】

1)従業員エンゲージメントとは「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」を指す概念。(出所)吉田・岡田(2019)
2)内発的動機づけとは、給与や上司からの評価など外部からモチベーションを刺激する外発的動機づけに対して、仕事に対する興味や関心、そこから生まれるやりがいや達成感など心のうちから湧き上がってくるモチベーションを指す。詳細は、ダニエル・ピンク(2015)を参照。
3)トータル・モチベーションとは、仕事の楽しさや目的などを動機として働くことで高まる総合的なモチベーションを指し、ToMoを高めることで、企業の業績向上に繋げることができるとされる。詳細は、ニール・ドシ、リンゼイ・マクレガー(2016)を参照。
4)PERMAとは、持続的なQOL(well-being)を構成する5つの要素を指し、これを高めることで持続的にQOLを高めることができるという概念。PERMAのPはうれしい、楽しい、面白いといったポジティブな感情(Positive emotion)、Eは物事への積極的な関わり(Engagement)、Rは他者との良い関係(Relationship)、Mは人生の意味や意義の自覚(Meaning)、Aは達成感(Accomplishment)を指す。詳細は、マーティン・セリグマン(2014)を参照。
5)心理的「資本」と名付けられているのは、経済的資本や人的資本、社会関係資本と並んで、企業が他社との差別化を図り、競争優位性を導く資本の一つとして管理・強化していくことが提唱された経緯があるためである。久保田(2015)P57を参照。
6)ルーサンスら(2020)Pⅵ~ⅷで、原著を翻訳した研究者たちが心理的資本の各要素について、あえてホープやオプティミズムなど原語のカタカナ表記を当てた理由は、希望や楽観性などの日本語が心理的資本の各要素が示す内容とかなり異なる内容を含む概念であり、一般に使われる日本語表記とすることで却って読者にとってミス・リードとなることを避けたためである。
7)久保田(2015)P54より抜粋。
8)メタ分析とは、同じテーマについて行われた別々の研究結果を、統計的な方法を用いて統合する方法。メタ分析では、多くの研究を統合することで、①サンプル数の増加により、心理的資本と従業員の態度や行動、業績に関する、より精度の高い定量的な関係を知ることができる、②多くの研究を対象とすることで、心理的資本が影響する従業員の心理的態度や行動、業績として、どのような変数が研究に使われているのか俯瞰でき、当該テーマに関する実証研究の全体像を把握できる、などのメリットがある。
9)組織市民行動とは「自由裁量的で,公式的な報酬体系では直接的ないし明示的には認識されないものであるが,それが集積することで組織の効率的および友好的機能を促進する個人的行動」を指す概念。具体例としては、病気で休んでいた人の仕事を支援する、職場に散らかったゴミを掃除する、間違った手続きを見つけたらいち早く忠告する、などが挙げられる。(出所)田中堅一郎(2012)「日本の職場にとっての組織市民行動」『日本労働研究雑誌 No. 627/October 2012』P15。
10)逸脱行動とは「所有権逸脱(備品・機器の破壊、会社のものを盗む、リベートの受領、勤務時間の偽り)、個人攻撃(セクシュアル・ハラスメント、言語による虐待、仕事仲間のものを盗む、仕事仲間を危険な目に遭わせる)、生産性逸脱(早退する、余分な休息をとる、意図的にゆっくり仕事する、資源を無駄に使う)、政治的逸脱(えこひいきを示す、仕事仲間のうわさ話をする、仕事仲間を非難する、無益な争いをする」などを指す概念。(出所)田中堅一郎(2001)「職場に対する従業員のささやかな抵抗:組織阻害行動とその規定要因の研究」『経営行動科学第14巻第2号』P87。
11)例えば、(一社)日本ポジティブ心理学協会や(株)ザ・アカデミージャパンなどがレジリエンス研修を提供している。

【参考文献】

  • 久保田佳江(2015)「サイコロジカル・キャピタルの台頭:組織行動における台頭の意義」『異文化経営研究第12号』
  • 厚生労働省雇用政策研究会「人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて」『雇用政策研究会報告書』(2019年7月)
  • 厚生労働省「令和元年版 労働経済白書」(2019年9月)
  • マーティン・セリグマン(2014)「ポジティブ心理学の挑戦」
  • 第一生命経済研究所「人生100年時代の『幸せ戦略』」『ライフデザイン白書2020』(2019年11月)
  • 第一生命経済研究所「『幸せ』視点のライフデザイン」『ライフデザイン白書2022』(2021年10月)
  • ニール・ドシ、リンゼイ・マクレガー(2016)「マッキンゼー流 最高の社風のつくり方」
  • ダニエル・ピンク(2015)「モチベーション3.0~持続するやる気をいかに引き出すか」
  • 宮木由貴子「ライフデザインの視点『「幸せ」視点のライフデザイン~なぜ今well-beingなのか』『第一生命経済研究所HP』」(2021年11月)
  • 村上隆晃「働きがいのマネジメント指標『心理的資本』」(2020年5月)
  • 村上隆晃「Well-beingとライフデザインの幸せな関係」(2021年7月)
  • 吉田由起子・岡田恵子(2019)「エンゲージメント:back to basics! - WTW (wtwco.com)」『ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター2019.10.26』
  • フレッド・ルーサンス、キャロライン・ユセフ=モーガン、ブルース・アボリオ(2020)「こころの資本」
  • Luthans, F., & Youssef, C. M.. “Human, social, and now positive psychological capital management: Investing in people for competitive advantage“. (2004)
  • Luthans, Fred; Avey, James; Avolio, Bruce; Norman, Steven M.; and Combs, Gwendolyn, "Psychological Capital Development : Toward a Micro-Intervention" (2006)
  • Luthans, F., Youssef, C. M., & Avolio, B. J. “Psychological Capital : Developing the Human Competitive Edge” (2007a)
  • Luthans, F., Avolio, B. J., Norman, S. M., & Avey, J. B. “Psychological capital: Measurement and relationship with performance and satisfaction. ”Gallup Leadership Institute Working Paper. Lincoln, NE: University of Nebraska. (2007b)
  • Avey, James B. Reichard, Rebecca J. Luthans, Fred and Mhatre, Ketan H. “Meta-Analysis of the Impact of Positive Psychological Capital on Employee Attitudes, Behaviors, and Performance” (2011)

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 研究理事
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

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