コミュニケーション志向の変化

~新たなコミュニケーション手段の拡がりのなかで~

北村 安樹子

目次

1.対面・通信コミュニケーションへの意識

当研究所が2019年1月におこなった調査では、人と会うことや対面でのコミュニケーションへの意識(以下「対面コミュニケーション意識」)と、メールやSNSのようなインターネットを介した通信コミュニケーションへの意識(以下「通信コミュニケーション意識」)についてたずねている。結果をみると、「対面コミュニケーション意識」に関しては回答者の約半数が好きだ(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同)と答えており、性・年代別にみた場合、特に若い女性で他のグループに比べ高い割合となっている(図表1)。

これに対して「通信コミュニケーション意識」では、苦手だ(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同)とした人が回答者全体の半数弱となっている。性・年代別にみた場合、男性では30代以上、女性では40代以上で苦手とした人の割合はやや高い。好き嫌いと得手不得手を同列に語ることはできないが、「通信コミュニケーション意識」に加え「対面コミュニケーション意識」に関しても若い世代の方が前向きな人が多いことがわかる。

子どもの頃からメールやSNSが拡がっていた若い世代の方が、通信コミュニケーションに苦手意識をもつ人が少ないことは比較的理解されやすいと思われるが、他者と会うことや対面コミュニケーションにも若い世代の方が前向きであることを意外に感じる人もいるだろう。しかしながら、これらの結果を組み合わせてみると、「対面コミュニケーション意識」に好きだ、「通信コミュニケーション意識」に苦手でないと答えた人(「あてはまらない」「どちらかといえばあてはまらない」の合計)は若い世代に多く、逆に前者に好きだと答えず、後者を苦手だと答えた人は40代を中心とするミドル世代の男女に多い(図表省略)。若い世代では年長世代に比べ、人生の早い時期から新たな通信コミュニケーション手段を利用し始める人が多いことや、年長世代に比べ自由な立場で他者との対面機会をもちやすいことが関連しているのかもしれない。

図表
図表

2.新たなコミュニケーション手段の拡がりがもたらす気づき

各種の通信機器や、インターネットを介した通信コミュニケーションには、この設問で例示したメールやSNS以外にも多様な形態がある。コロナ禍以前から利用されているビデオ通話やテレビ電話もその1つだろう。コロナ禍を通じてリモート勤務やオンライン授業がおこなわれたことは、これらのコミュニケーション手段があらためて注目され、より多くの人に利用されるきっかけになったと考えられる。

尋ね方や言葉の定義にもよるが、ビデオ通話やテレビ電話を含め、これらのコミュニケーション手段を利用したことがある人は、若い世代では約8割に達するという調査結果もある(図表2)。現状では年齢等による利用状況の差が大きく、高齢者を中心に利用経験者が少ない。しかしながら、これらを含む新たなコミュニケーション手段が多様な形で拡がるにつれ、個人が抱いている「対面コミュニケーション」や「通信コミュニケーション」への認識が今後は変わる場合もあるのではないか。そのポジティブな面に目を向ければ、冒頭でみた「対面コミュニケーション意識」や既存の「通信コミュニケーション」への苦手意識を、新たな手段や技術を利用して和らげることや、新たな強みとして活かせる場合もあると思われる。家族・友人との連絡や教育、ビジネスなど様々な場面において、従来の手段では接点をもちにくかった相手とのコミュニケーション機会を増やしたり、これまでには必要とされなかった新たな役割や仕事を生み出す面もあるだろう。

コロナ禍を通じた新たな通信コミュニケーション手段の発展と拡がりは、対面でのコミュニケーションを含めて、従来からある手段がもつ固有の価値を社会の様々な領域で問い直している。対面でおこなう必要性やその効果、実際に会うことの価値などが以前より強く意識されるようになった一方で、多様な通信手段に関しても、多くの利点とともに、新たな課題への気づきが生まれている場合があるだろう。これらの変化は、多様なコミュニケーション手段に対する好き嫌いや得手不得手をめぐる個々人の意識にも、再考や進化を促した面があるのではないだろうか。

図表
図表

【関連レポート】

1) 北村安樹子「「声や画面でつながる時間」の意味~第3回新型コロナウイルス調査から~」2021年3月。

2) 北村安樹子「声や画面で家族とつながる時間への意識~第3回新型コロナウイルス調査から~」2021年1月。

なお、当研究所のホームページには、上記レポートを含め、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした様々な変化に注目したレポート・ニュースリリースの一覧ページ「新型コロナ(生活)」がある。

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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