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韓国行政プラットフォーム「政府24」の衝撃

~国民目線の使いやすいポータルサイト~

柏村 祐

目次

1.韓国政府のデジタル化

筆者は以前、デジタル化が進んだ国として、デンマークの市民ポータルBorger.dk(Borger は市民、dk はデンマークを意味するポータルサイト)をレポートで取り上げた(注1)。今回は、デンマーク同様にデジタル化が進んだ国として韓国を取り上げ、その行政プラットフォーム「政府24」について解説する。

国連が年に一度調査を行うデジタル化政府ランキング2020年度によれば、韓国は、デンマークに次ぐ2位となっている。韓国における行政サービスのデジタル化推進の経緯を振り返る。2000年以前は省庁毎に個別に情報化を推進していたが、2001年当時の金大中大統領が、行政サービスのデジタル化の本格的な取組みを開始した。盧武鉉大統領に政権が移行した2003年以降はトップダウンで推進し、その対象をほぼすべての行政部門に拡大している。従来は、住民・不動産・自動車などの行政データベースの構築や旅券発行、不動産登記簿システムなどについて、地域間、システム間の連携のような行政側目線の情報化が中心であったが、国民が行政サービスの利便性向上を実感するために、行政情報の共有、電子手続きの拡大、行政ポータルサイトの構築などが推進された。その後、李明博大統領政権に移行し、当時普及が進んでいたタブレットやスマートフォンに対応するために、国民が多様な端末を介して行政サービスを利用できる「スマート電子政府構想」を2011年3月に公表するなど、時代の変化に応じた対応を推進している。

2.行政プラットフォーム「政府24」とは

着実にデジタル化を成功させた韓国において特に注目される事例として、行政プラットフォーム「政府24」が挙げられる(図表1)。「政府24」は、24時間365日いつでもどこでも証明書発行や各種の行政申請を行える。「政府24」にログインするための電子認証メニューは、日本のマイナンバーにあたる公的な住民登録番号以外にも民間のSNSアカウントや通信キャリアの利用証明も使えるなど多様な方法が用意されていることが特徴となる。このように多様な電子認証メニューが用意されているため、国民は日常的に利用しているSNSアカウント等から気軽に「政府24」を試すことができる(図表1)。

筆者は、実際に「政府24」を閲覧し、どのような行政サービスが展開されているか確認してみた。2018年7月時点で「政府24」に登録していた会員数は約770万人であったが、2021年7月にはその2倍以上の1,690万人に増加しており、国民の約3分の1が登録している。また、アクセス数は、2018年7月時点の約830万回から、2021年7月には約4,000万回に達している。アクセス元はパソコンが79%、スマートフォンが20%、タブレットが1%となっており、多様なデジタル端末からアクセスされていることがわかる。

「政府24」では、住民登録謄本や抄本、納税証明書といった汎用的な証明サービスが展開されていることに加えて、国民が利用しやすいサービスメニューとして「ワンストップサービス」「ライフサイクル別サービス」「パッケージサービス」も用意されている。

「ワンストップサービス」は、妊娠、出産、転入、相続などのライフイベントにおいて必要となるサポートを一括して申請できるサービスである。例えば、「幸せ出産ワンストップサービス」では、母親本人または配偶者であれば、出産後に受けることができる養育手当、児童手当などの様々なサービスを一括して申請可能だ。「幸せ出産ワンストップサービス」を利用した人のインタビューが行政プラットフォーム「政府24」で紹介されているが、30歳の新米ママは、「出生届ついでに「幸せ出産ワンストップサービス」を申請し、養育手当、児童手当、電気代軽減、出産奨励金、出産祝いのギフト、おむつ券まで出産後受けることができる福祉サービスを一度に得ることが出来て良かった」と話している(注2)(図表2)。

図表 2 「ワンストップサービス」における出産申請のページ
図表 2 「ワンストップサービス」における出産申請のページ

さらに「ライフサイクル別サービス」では、乳幼児、青少年、青年、中高年、高齢者といったライフステージ毎に必要なサービスが提供される。例えば、表示される青年のアイコンを選択するとニーズの高い「奨学金」、「ローンサポート」、「手当」などの内容が案内される。ソウル市の青年手当を利用した就職活動中の青年のインタビューが行政プラットフォーム「政府24」で紹介されている。この27歳の青年は、「6ヶ月の間、毎月50万ウォンを受けることができると思うと、心理的に余裕が生じ、何かしてみたいという意欲も強くなりました。」と述べている(注3)。

その他、高齢者のアイコンを選択し、医療介護メニューに絞り込むと「運動教室」、「高齢者の交通教育」、「鉄道割引サービス」などの内容が案内される。つまり、自分が該当するライフステージにおいて必要と思われるメニューが検索できるのだ。

「パッケージサービス」では、住まい、近所割引、ペット、海外旅行、兵役などのメニューが用意されている。ペットメニューを選択してみると、「動物の登録申請・変更届」、「再発行、輸出ペット(犬・猫)の検疫事前予約」ができる。また、近所割引のアイコンを選択すると「スポーツ講座利用権」、「面接スーツ無料レンタルサービス」などの無料・割引サービスを申し込める。

以上のように、「政府24」は、「ワンストップサービス」「ライフサイクル別サービス」「パッケージサービス」といったメニューを、国民だれもが直感的に操作しやすいように提供しており、国民目線による利便性を最優先した行政プラットフォームだと言える。

3.個人毎に最適化される情報

国民共通メニューである「ワンストップサービス」「ライフサイクル別サービス」「パッケージサービス」に加えて、行政プラットフォーム「政府24」には個人毎に最適化された「マイライフインフォメーション」が提供されている。

提供される「マイライフインフォメーション」の分野は、「家族/健康」「税金/還付金」「年金」「兵役」「罰金/過料」「自動車」「生活金融」「住宅/福祉」の8分野67種類であり、国民はここから自分の生活に関するきめ細かい情報を得ることができる(図表3)。また、「国民秘書」というサービスを使えば、交通反則金、罰金、運転免許の更新、健康診断日をスマートフォンアプリに事前に知らせる通知サービスも活用できる。

図表 3 個人毎に提供される生活情報の内容
図表 3 個人毎に提供される生活情報の内容

さらに「政府24」では、自分自身が行政から受けられる特典についても確認できる。メニューの1つである「補助金24」を確認すると、行政による支給サービス305種類のうち、年齢、収入、資格基準に基づいた特典内容を確認できる。特典内容は、現金、利用権、医療支援、雇用など多岐にわたる。

4.国民目線の行政サービスの実現

以上のように、韓国の行政プラットフォーム「政府24」の強みは、国民に寄り添った「使いやすさ」に集約されるだろう。利用者である国民の目線を追求したことによって、「ワンストップサービス」「ライフサイクル別サービス」「パッケージサービス」「マイライフインフォメーション」「補助金24」といったオンラインを介した行政サービスが進化を遂げている。

日本において2021年9月に設置されたデジタル庁は、徹底的な国民目線でのサービス創出を目標に掲げている。国民目線のサービスを創出するために、既に実績があり利用が進む韓国の行政プラットフォーム「政府24」から、多くを学ぶことができるのではないだろうか。


柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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