孫は健康づくりのモチベーションになるのか

~60代の祖父母では「なる」と感じる人が8割弱~

北村 安樹子

目次

1.少孫化の時代

子どもをもたない人が増え、晩婚・晩産化が進むなかで、子どもがいる人が祖父母の立場を経験するとは限らず、経験する場合にも、その時期は以前より後ずれしている。例えば、現在60代を迎えている世代が生まれた昭和30年代の平均的なライフサイクルでは50代だった初孫誕生を迎える時期が、2000年代には60代に後ずれしてきていることを示す資料もある(注1)。
 図表1のように、当研究所が行った調査でも、男性では50.5%、女性では66.5%と、子どもがいる人に限れば半数以上が祖父母の立場になっている(注2)。男性ではおおむね60代後半、女性では60代前半で孫がいる人の割合が半数を超えて多数派となる。また、60代時点での孫の人数の平均値は2~3人で、最も多い65~69歳の女性では2.71人と、3人に近い値となっている。一方、4人以上の孫がいると答えた人は、60代後半の男女でも3割に満たない。

図表
図表

2.孫は健康づくりのモチベーションになるのか?

では、これらの60代男女は孫の存在をどのように感じているのだろうか。
 先の調査によると、子どもがいる60代のうち「子どもや孫の存在は、健康維持や体力づくりのモチベーションになる」とした人(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計)は約7割であるが、孫がいる人では孫がいない人を10ポイント近く上回る(図表2)。また、男性に比べ女性の方が、このように感じる人の割合は高い。同別居による差はみられないことから、同居しているかどうかにかかわらず、孫がいる人では孫がいない人に比べ、このように感じている人が多い。
 令和の60代男女には、仕事をはじめ、多様な社会的活動にかかわる人も多く、なかには自分が祖父母の立場になることに複雑な気持ちを抱く人もみられる。また、「おじいちゃん」「おばあちゃん」や「じいじ」「ばあば」など、老いや立場を感じさせる呼び名ではなく、先々の関係まで視野に入れ、孫には名前やニックネームで呼んでほしいと考える人もいるようである。以前に比べ、祖父母の役割以外にも社会で様々な役割を担い、多くの関心事をもつ人も多い60代男女ではあるが、それでもこの調査結果は、孫の誕生や存在が、自身の健康維持や体力づくりのモチベーションになると感じている人が少なくないことを示している。
 しかしながら、60代以上のシニア世代には、コロナ禍で子や孫と気軽に会う機会が減り、先のようなモチベーションが健康づくりに結びつきにくくなっている人もいるだろう。コロナ禍が終息し、子や孫と気兼ねなく会える日が戻るまでの間、できる範囲で心身の健康につながる行動を積み重ねておくことも、来るべきコロナ後の生活に向けた備えとして大切ではないだろうか。

図表
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【注釈】
1)少し古い資料になるが、平成24年版の厚生労働白書には、1920年(大正9年)、1961年(昭和36年)、2009年(平成21年)における日本人の平均的なライフサイクルが記載されている。
ライフコースが多様化している現在、「平均的なライフサイクル」をとらえることは難しくなっているが、この資料では2009年のライフサイクルにおける初孫誕生の平均年齢を男性63.8歳、女性62.0歳としており、いずれも以前に比べ大きく後ずれしている。今回紹介した調査結果をふまえても、子どもがいるシニア世代にとって60代は現在、祖父母という新たな立場を経験する人が多い時期だと考えられる。

2)子どもがいない人を含めた場合、孫がいる人の割合は60代男性で40.7%、60代女性では57.5%となる。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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