画面を介した共食経験

~若い世代の経験者では増加、70歳以上では減少~

北村 安樹子

目次

1.オンラインを利用した共食経験

コロナ禍を背景に、他者と同じ空間で食事をする際の方法や環境についての議論を目にする機会が増えている。新たなスタイルやマナーが求められることに、戸惑いを感じた経験をもつ人もいるかもしれない。
 ウィズコロナの状況下では、「オンライン食事会」や「リモート飲み会」などと呼ばれる新たな「共食」のスタイルも注目された。今回はこのオンラインを利用した「共食」の経験に関する調査結果を紹介し、コロナ禍がこのような経験にどのような形で影響したのかを考えてみたい。

2.オンライン共食、経験者は2割前後

農林水産省が昨年12月に行った調査では、全国の20歳以上の男女5,000人に対し、「オンラインを利用して家族や友人と食事を共にした経験」をたずねている。この設問には「増えた・広がった」「変わらない」「減った・狭まった」「もともとない」という4つの選択肢があるが、性別や年齢にかかわらず、もっとも多くあげられた回答は「もともとない」で回答者全体の8割前後を占める(図表1)。通話やメッセージの送受信をはじめ、ビデオ通話等を通じてコミュニケーションを行った経験はあっても、オンラインを介して他者と食事を共にした経験をもつ人はあまり多くないことがわかる。
 一方、「もともとない」に続いて多くあげられたのは「変わらない」であり、性別や年代にかかわらず、1~2割程度を占める。このような経験が「もともとない」人からみると想像しにくいかもしれないが、この調査結果からは、「増えた・広がった」「減った・狭まった」と答えた人を含めて、コロナ禍以前からオンラインを利用して他者と食事の時間をともにした経験がある人がどの年代にも2割弱~3割弱程度いることがわかる。そして、その多くはコロナ禍以降も、同じようなペースでそのような機会があると考えられる。
 また、「もともとない」と答えた人や「変わらない」と答えた人に比べると少ないが、コロナ禍以降、このような経験が「増えた・広がった」と答えた人や、「減った・狭まった」と答えた人も確認される。前者は男女とも20~39歳以下の若い世代で、後者は60~70歳以上の世代で多くなっている。

図表1
図表1

3.若い世代の経験者では増加し、70歳以上では減少したオンライン共食

ここで、コロナ禍以前からオンラインを通じた共食機会があったと考えられる人を分母にしてその増減状況を再集計すると、20~39歳以下の若い世代では「増えた・広がった」と答えた人が3割弱~4割強を占める一方、60~70歳以上の経験者では「減った・狭まった」と答えた人がそれ以上の割合を占めていることがわかる(図表2)。
 具体的には、オンライン共食の機会がコロナ禍以前からあったと考えられる人のうち、20~39歳以下の人では男性の25.1%、女性の43.7%が「増えた・広がった」と答えているが、50代以上の男性や70歳以上の女性ではいずれも1割を下回っている。これに対して「減った・狭まった」と答えた人は、20~39歳の男女ではいずれも1割を下回るのに対し、70歳以上の男性では4割強、女性では5割弱を占める。このように、年代によって増減状況に違いがみられる背景には、どのような理由が考えられるだろうか。

図表2
図表2

4.若い世代の経験者で増えたのはなぜか

考えられる理由の1つに、周囲の同世代を含めて、人生の早い時期からインターネットを介した多様なコミュニケーションに親しんでいる若い世代の方が、オンラインを利用した共食という行為にも抵抗感や特別な意識をもちにくい可能性があげられるだろう。ウィズコロナ下のライフスタイルとして改めて注目されたオンラインを利用した共食という経験も、若い世代には経験者が多く、変わらず続ける人や気軽に行う人も多かったのかもしれない。
 もちろんオンラインを介した共食の経験状況や意識には個人差もある。どのような理由で誰とどのような形の共食を経験したのか、また、費用や時間等の面を含めて、対面での共食の場や機会のもちやすさといったことも関連するだろう。ウィズコロナ下の生活が続いていた昨年12月の時点で、若い世代の経験者にそのような機会が増えた人が多かった背景には、コミュニケーション手段やライフスタイルとしてオンラインを介した共食に多様な効果を感じる人が高齢世代に比べ多かったためではないか。新たな季節を迎え、三度目となる緊急事態宣言の発出など一部の地域で人々の対面での共食の機会やスタイル、地域間移動等をめぐって自粛を求める動きが再び強まるなかで、オンラインを利用した若い世代の共食の動きは再び広がるだろうか。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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