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エコノミスト大胆予測、24年度はこうなる!『2024年度日本経済展望』(2024年4月号)

熊野 英生

目次

巷間、株価上昇は半年くらい先の経済動向を先取りしていると語られる。日経平均株価は年初以降急上昇していて、それは企業収益の拡大を予測して動いているということなのだろうか。

エコノミストたちが注目しているGDP統計は、全くの不振である。2023年7-9月、10-12月(一次速報)と連続して、前期比マイナスだった。2024年1-3月も、3期連続のマイナスになってもおかしくはない。自動車メーカーの不祥事で、この1-3月の生産活動は大きく減退している。企業収益の悪化は避けられそうにない。

ならば、その先の2024年7-9月以降の企業収益、あるいは景気動向がより明確に改善していくということなのだろうか。そこで逆算の発想を試してみて、夏場以降に景気の好材料として何がありそうなのかを考えてみることにした。

期待できそうなのは、米経済が成長力を増すことだ。一時は金融引き締めで減速感が強まると予想されたが、意外に減速せずに高成長する可能性が高まってきた。自動車メーカーなどは米経済の成長に助けられて、2024年度の業績拡大を果たすとみられる。米国では、5.25~5.50%の政策金利で打ち止めになり、2024年央のどこかで利下げに踏み切るという予想もある。これも米経済の高成長を支えていく材料になる。

もう1つ、好材料があるとすれば、世界的な半導体サイクルが2023年後半から徐々に上向きに変わってきて、2024年中はさらに回復感が強まりそうな点が挙げられる。米国のナスダック指数は、この半導体サイクルを反映して上下動しやすい。目下、日米株価が連動して上がっていることは、半導体ブームの到来を先取りしているとみられる。実体経済は2024年中盤以降に表れてくるだろう。生産全体に対して、半導体需要拡大の効果は大きい。

日銀の政策修正

さらに、経済分野のトピックスに日銀の利上げがある。2016年以来のマイナス金利政策を解除して、実質ゼロ金利にすると予想される。3月か4月の日銀会合でその決定が下されるだろう。日銀は、現在、▲0.1~0%の短期金利を0.1%へ引き上げる公算が高い。この利上げは、実体経済や金融マーケットにはショックをいくらか与えるだろうが、利上げ後の金利水準が0.1%と低く、さらにその低金利を半年間くらいは維持することで、金融市場に対して安心感を与えると筆者は考える。ショックはごく短期間で収束して、為替レートは1ドル150円よりも円安水準で2024年央以降は推移するだろう。このことは、企業収益にはプラスに働いていくとみられる。リスク・イベントであった日銀の利上げは、イベントを通過すると、「思ったほどのショックではない」という評価になり、より安心感を与える可能性がある。

しかし、為替が円安基調になることはマイナス面もある。輸入物価が上昇しやすくなり、家計にとっては食料品など身近なものの値上がりにつながる。政府が経済見通しとして発表している数字には、2024年度の消費者物価・前年比2.5%というものがある。この数字は割と高目である。筆者もこの位まで物価上昇があってもおかしくはないとみている。家計にとっては、高すぎる物価上昇率が消費抑制に働くので、歓迎されない。実質賃金もマイナス状態になりやすくなる。

企業にとって円安傾向は好ましいかもしれないが、家計にとって重荷になることはジレンマである。結局、日銀は企業の立場に立って、なるべく金融緩和を続けようとしている。株価上昇は、家計にとっても恩恵はある。しかし、調べてみると、個別株の保有率は個人のうち13%程度と低い。株価上昇の恩恵は新NISAの開始でいくらか広がってはいるものの、まだ物価上昇の痛みを解消するほどではないようだ。

熊野 英生


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