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ESGインサイト『PBR向上に向けた東証・上場会社の取組みとその成果』

河谷 善夫

目次

東証・上場会社の取組みについて

東証は2024年1月15日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示会社一覧表を公表した。東証は、日本の主要会社において、PBR(株価純資産倍率)等の水準が欧米に比べ劣後していることを問題視し、2023年3月末にプライム・スタンダード市場全社に対して資本コストや株価を意識した経営の実施を求め、その取組み状況等の開示を要請した。今回の一覧表の公表は、この要請に対し2023年12月末までに開示を行った会社のリストを公表したもので、今後毎月更新されることになっている。

プライム市場会社の約半数が既に要請に応じた

資料1は、1月15日に公表されたリストの内、プライム市場上場会社について集計したものだ。

図表1
図表1

2023年12月末時点でのプライム市場上場社数1,656社の内、815社が東証の開示要請への対応を行っている。この要請については当初PBR1倍未満の会社が対象との理解もあり、これらの会社の方が対応割合は高いものの、PBR1倍以上の会社も4割近くが対応している。

取組みの成果はどうか?

足元では日本の株式市場が活性化し、株価もバブル崩壊後、最も高い水準になっている。これはこの取組みが一因とも言われている。そこでプライム市場全体のPBRの水準の異同を2023年3月末と同年12月末とで比べたものが資料2である。この間の入退出会社の影響を除くため、プライム市場に継続して上場している1,635社を対象とした。確かにPBR1倍未満の会社割合は4%ptほど低下しているが、まだ対応をしていない会社も含め市場全体で株価が高くなっているので、単純にこの取組みの効果といえないだろう。

それをみるため、東証の要請に従い、既に開示対応した815社について資料2と同様、PBR水準の異同を確認したものが資料3である。

図表2
図表2

図表3
図表3

PBR1倍未満の会社割合は5%ptほど低下している。全体と比べやや減少割合は大きいものの、顕著な違いとはいえない。

取組みの成果は中長期の観点からみるべき

確かに足元で株価は上昇し、上場会社のPBR水準も改善している。東証・上場会社の取組みが一因である可能性は否定できない。しかしこの成果が本格化するには、開示に基づいた投資家との対話が進み、広く資本コスト・株価を意識した経営が根付くことが必要だ。東証・上場会社の取組みの成果は、短期的な株価ではなく、中長期的に評価していくべきものだろう。

(本稿関連として、2023年7月「【1分解説】『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』とは?」あり。
(https://www.dlri.co.jp/report/ld/265376.html)

河谷 善夫


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