内外経済ウォッチ『アジア・新興国~中国経済はいよいよ「デフレ」を意識せざるを得ない状況に~』(2024年3月号)

西濵 徹

目次

供給サイドを中心に景気は底入れも「名実逆転」

2023年の中国の経済成長率は+5.2%と政府目標(5%前後)をクリアするなど、一見すれば比較的堅調な推移をみせている。足下の中国景気は供給サイドを中心に底入れしている一方、需要サイドについては家計消費をはじめとする内需は力強さを欠く推移をみせるほか、外需も米中摩擦や世界的なデリスキング(リスク回避)を目的とするサプライチェーン見直しの動きが足かせとなる状況が続いている。

よって、足下の中国経済は需給ギャップの拡大に繋がる動きがみられる。こうした状況を反映して昨年の名目成長率は+4.6%と実質成長率を下回る8年ぶりの「名実逆転」となるなどデフレが意識されている。これは不動産市況の低迷を受けて幅広い分野がバランスシート調整圧力に晒されている上、当局が長期に亘る「ゼロコロナ」への拘泥により若年層を中心に雇用回復の遅れが影響していることがある。

デフレが意識される状況を勘案すれば、中銀(中国人民銀行)が利下げなど金融緩和に舵を切ることが予想されるものの、現時点では預金準備率の引き下げなど小出しの対応が続いている。さらに、株式市場では様々なPKO(株価維持政策)が打ち出されるなど「小手先」の対応が続いている。中銀が利下げ実施に及び腰となる背景には、コロナ禍を経て銀行部門の収益が低下するなかで一段と悪化することを警戒していることが挙げられる。

図表1
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政策運営を巡り「自縄自縛」の展開が続く懸念も

他方、昨年の人民元安を理由に米ドル建で換算したGDPは29年ぶりに減少するなど、世界経済における存在感の低下を招いたことも影響している可能性がある。仮に中銀が利下げに舵を切る動きをみせれば人民元安を招くことが懸念されるほか、米ドル建で換算したGDPに一段と下押し圧力が掛かることも予想されるため、中銀にとっては事実上政策運営の手足が縛られる状況に陥っている可能性が考えられる。

さらに、中国においてはコロナ禍の影響を受ける形で一昨年は61年ぶりとなる人口減少に陥る事態となった。当局は出生を奨励するいわゆる「三人っ子政策」に舵を切る動きをみせているものの、昨年も2年連続で人口が減少するとともに、そのペースが加速するなど潜在成長率の低下に繋がる動きもみられる。地方部を中心に不動産の過剰供給が意識されるなか、若年層の雇用悪化を理由に需要回復が遅れる可能性もくすぶるなど、不動産市場を取り巻く環境は一段と厳しくなることも予想される。

なお、減少局面入りするも人口は14億人を超える上、富裕層や中間層の厚みを勘案すれば市場としての中国の魅力は依然高いのは事実であろう。しかし、マクロ的な観点でみた中国経済を取り巻く状況は極めて厳しく、ビジネスの視点でみた中国の捉え方はこれまで以上に難しいものとなることは避けられない。世界経済の「けん引役」不在となる展開が続くであろう。

図表2
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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