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内外経済ウォッチ『欧州~ドイツは「欧州の病人」に逆戻り?~』(2023年12月号)

田中 理

目次

ドイツが日本を抜き世界第3位に浮上

2023年の日本の名目国内総生産(GDP)はドイツに抜かれ、世界第4位に転落する見込みとなった。日本もドイツ復活に見習うべきとの論調もしばしば聞かれるが、当のドイツの経済パフォーマンスは最近振るわない。2022年10~12月期にマイナス成長に転落した後、2023年前半はほぼゼロ成長にとどまり、7~9月期は再びマイナス成長に逆戻りした。2023年の年間成長率がプラス圏に浮上するには、最終四半期が前期比+0.5%以上の高成長が必要だが、10~12月期入り後の経済指標も総じて悪化している。2023年は主要先進国で唯一のマイナス成長となる可能性が高い。

そんなドイツにGDPが抜かれてしまう日本の体たらくも悲しいが、これは円安進行で米ドルに換算したGDPが目減りした影響が大きい。ドイツのインフレ率は日本よりも高く、名目値で比較するGDPが高く出た面もある。とは言え、日独逆転に至る過程では、長年の日本の低成長とデフレがボディーブローのように効いてきたのは間違いない。ドイツを模倣すれば良いと言うほど単純なものではないが、ニッチ市場で高い競争力を持つ中小企業、地方経済の厚みと雇用創出力、最近までのドイツ復活をもたらした構造改革と政治の決断力など、ドイツに学ぶべきところは学び、経済活性化とデフレ脱却の一助としたいところだ。

図表1
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強みが弱みに転じたドイツ経済

ドイツに話を戻すと、最近の経済不振を受け、東西ドイツ統一後の構造不況に苦しんだ「欧州の病人」に舞い戻ったのではないかとの悲観論も聞かれる。ロシアによるウクライナへの侵攻以前、ドイツはロシア産の安価な資源輸入にエネルギー源を依存してきた。だが、脱ロシアを急速に進めた結果、割高な液化天然ガス(LNG)の輸入を大幅に拡大し、資源価格の高騰と相俟って、コスト高に見舞われている。また、米国で2022年に成立したインフレ抑制法(IRA)は、電気自動車(EV)などに巨額の補助金を提供する。国内の事業コスト増加と相俟って、ドイツでも産業空洞化が不安視されている。頼みの綱の中国経済も、不動産市況の不振や若年失業の増加もあり、かつての高成長は望めない。ドイツでも対中警戒論が高まっており、時間をかけて過度な中国依存を軽減する「デリスキリング」を進めている。中国頼みの経済成長神話に陰りがみられる。

こうした問題の一部は構造的とみられるが、「欧州の病人」と呼ばれていた頃とは異なり、ドイツの失業率は歴史的な低水準にとどまっている。資源価格の高騰は既に峠を越え、インフレ率も落ち着いてきた。最近の労使交渉でも高めの賃上げ妥結が相次いでおり、家計の実質購買力の回復が更なる景気悪化を食い止める鍵を握りそうだ。

図表2
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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