内外経済ウォッチ『米国~金融引き締まりの後退はインフレ低下を鈍らせる~』(2023年12月号)

桂畑 誠治

目次

金融環境の引き締まりを受け利上げ見送り

FRBは、11月のFOMCで、政策金利であるFFレート誘導目標レンジを5.25~5.50%に2会合連続で据え置いた。背景として、これまでの大幅な利上げによって政策金利がインフレ抑制効果のある高い水準に上昇したが、その効果が十分に出ていないこと、前回会合以降の市場金利の大幅な上昇によって金融環境が引き締まったことが、挙げられる。

金融市場では、金融環境の引き締まりが経済やインフレに影響するとの声明文やパウエル議長の発言をハト派的と解釈したことを受け、市場金利が低下し、株価は上昇した。また、ドルは弱含んだ。

11月FOMC前に公表された7-9月期の実質GDP成長率が前期比年率+4.9%と高い伸びになったほか、9月の非農業部門雇用者数が前月差+30万人程度に加速したことを受け、パウエル議長は、「経済成長や労働需要の底堅さを示す最近のデータに留意している」とし、高い経済成長や労働市場の逼迫が続き、インフレが再び加速するリスクがあれば、「さらなる金融引き締めが正当化される」と追加利上げの可能性を否定しなかった。今後、長期金利の上昇など金融環境の引き締まり等を背景に、10-12月期の経済成長が大幅に減速し、コアインフレの緩やかな低下や労働市場の逼迫緩和が継続すれば、FRBは政策金利の据え置きを続けると予想される。

図表1
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拙速な金融環境の引き締まり後退は景気を押し上げ

11月FOMC後に公表された10月雇用統計では、非農業部門雇用者数は、前月差+15.0万人(9月同+29.7万人)と米自動車メーカーでのストの影響による自動車産業での雇用減少によって、大幅に減速した。ただし、同ストは10月末で終了しており、11月には反動増が予想されている。また、ストの影響を受けた10月分を含む3カ月移動平均で、非農業部門雇用者数は前月差+20.4万人(前月同+23.3万人)、6ヵ月移動平均で同+20.6万人(前月同+21.7万人)と堅調な増加ペースを維持している。さらに、ストの影響を受け難い失業率が3.9%に上昇したが、依然として自然失業率と推測される4%程度にとどまっている。それでも、金融市場では、10月の雇用統計などを受け、利上げ終了との見方を強めたうえ、利下げの前倒し期待を高めた。これを受け、長期金利は大幅に低下し、株価は水準を切り上げるなど、金融環境の引き締まりが大幅に弱まった。

期待先行で金融環境の引き締まりが大幅に弱まる動きが継続すれば、経済成長が押し上げられ、インフレ目標である前年比+2%の達成時期を後ずれさせるリスクを高めよう。そうなれば、FRBに追加利上げを迫る可能性があるほか、政策金利の据え置き期間の長期化に繋がる恐れがある。

図表2
図表2

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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