内外経済ウォッチ『米国~長期金利の大幅上昇で早期利下げ観測復活へ~』(2023年11月号)

桂畑 誠治

目次

利上げ局面の終了が近づくなかで長期金利は上昇

米国では、利上げ政策が最終局面に近づくなかで、長期金利が大幅に上昇し、先行き不透明感を高めつつある。インフレ高進、その抑制のためのFRBの大幅利上げにもかかわらず、労働市場の需給逼迫を背景に、米景気は堅調さを維持してきた。9月公表のFOMC参加者による最新の経済・金利予測(中央値)では、実質GDP成長率(10-12月期の前年同期比)が23年+2.1%(前回+1.0%)と大幅に上方修正された。失業率予測(10-12月期の平均値)は、23年3.8%(前回4.1%)、24年4.1%(前回4.5%)、25年4.1%(前回4.5%)と予測期間を通じて下方シフトし、労働市場が26年末まで好調を維持すると見方を変えた。FRBは景気の楽観的な見方を強めた一方、インフレ見通しの修正は限定的なものとなり、インフレ目標の達成は26年末とされた。このようなファンダメンタルズ予想のもと、23年末の政策金利見通しの中央値は、5.625%(前回6月5.625%)に維持され、年内に25bpの利上げ1回が適切とされた。さらに、24年末の政策金利見通しの中央値が5.125%(前回4.625%)と0.5%上方シフトし、政策金利据え置きの長期化が適切との見方が示された。

FRBが長期間に亘り政策金利を高い水準に維持するとの見方が強まり、米長期金利は水準を切り上げた。30年米国債利回りは、10月4日に2007年以降で初めて5%台に乗せ、FFレート誘導目標レンジである5.25~5.50%に向けて上昇を続けている。

長期金利の大幅上昇が早期利下げの可能性を高める

23年の実質GDP成長率をみると、4-6月期に前期比年率+2.1%(1-3月期同+2.2%)と潜在成長率と推測される+1.8%成長を上回り続けたうえ、7-9月期は、個人消費の高い伸び等を背景に、一段と加速したとみられる。また、失業率(家計調査)は7-9月期も自然失業率と推測される4.0%を下回る低い水準にとどまった。

しかし、長期金利の大幅な上昇を背景に、住宅需要が縮小するほか、借り入れコストの上昇、債務の返済負担の増加等を通じて、個人消費が大幅に減速すると予想される。このため、10-12月期以降の実質GDP成長率は大幅に減速すると見込まれ、市場では早期利下げ観測が復活し、利下げ幅の織り込みも再び拡大する可能性が高い。

政策金利に対して長期金利が低い水準にとどまっていたことで、米景気が堅調さを維持し、それに合わせる形でFRBは政策金利を引き上げてきた。そのため、長期金利が政策金利の水準を上回って大幅に上昇すれば、金融環境は過度に引き締まろう。FRBの利下げ判断が遅れた場合、米国経済はリセッションに陥るリスクがある。

資料1 米国長期金利の推移
資料1 米国長期金利の推移

資料2FOMC参加者の経済金利予測
資料2FOMC参加者の経済金利予測

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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