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DXの視点『シンガポール「都市交通データ活用」から学ぶ』

柏村 祐

シンガポールでは、人口の増加に伴い、限られた道路やインフラをいかに効率的に活用するかが課題となっている。信頼性の高い交通システムを実現するために、自動運転車といった次世代の移動手段について未来に向けた取り組みを続けている。また、このような物理的な移動手段に加えて、既に陸上交通局では都市交通データを活用した取り組みとして「データのオープン化」を進めている。「データのオープン化」を進めるにあたり民間のシステム開発者は、陸上交通局が定めた手続きを踏むことにより、都市交通データを取得・利用することができる。取得できる都市交通データは、静的データと動的データに分類されている。

静的データとは、年に1回、半年に1回、毎月に1回更新される特定の期間における情報を集計したデータである。一方、動的データは、リアルタイムで更新される都市交通データである。実際、2023年6月下旬時点の静的データを確認したところ、シンガポールで登録されているバスの経過年数別台数や自動車の経過年数別台数などの109種類の情報を取得できる。また、動的データを確認したところ、バス到着時刻の遅延状況や混雑状況、タクシーの空き状況、交通状況、駐車場の空き状況など27種類の情報を取得できる。これらの動的データは各方面で有効活用されており、いくつかの便利な輸送アプリも開発されている。たとえば、シンガポールで人気のチャットボットである「バスおじさん(英語名Bus Uncle)」では、陸上交通局が提供する動的データに基づいて、バスを利用したい人は、バスおじさんとアプリを通じてチャットできる。バスおじさんの機能は、バスの到着時刻、ナビゲーション、画像認識に分類される。まず、バスの到着時刻機能では、バスおじさんは、バスの到着時刻をリアルタイムに配信してくれる。バスがダブルデッカーかどうか、混み具合はどうかなど詳細な情報を確認できる。ナビゲーション機能では、自分自身が行きたいところへ道案内をしてくれる。画像認識機能では、バスおじさんのチャット画面において、文字を入力する手間を省くために、バス停のパネルを撮影するだけで、バスが来る時刻を瞬時に知ることができる。バスおじさんのようなバスに関連するリアルタイム情報を提供するアプリ以外にも、陸上交通局が提供する都市交通データに基づきリアルタイムで駐車場の空き情報を確認できるアプリや、タクシーの空き状況データを活用した配車アプリなどが複数提供されている。

以上みてきたように、シンガポールでは、都市交通データを活用した輸送の効率化や利用者目線のアプリサービスの開発・提供が進んでいる。特に、バス到着時刻の遅延状況や混雑状況、タクシーの空き状況、交通状況、駐車場の空き状況など都市交通データを活用するアプリサービスは、人口が密集する都市部に生活する人々の移動手段の効率化につながっている。

シンガポールが実践する都市交通データの活用事例は、都市部における輸送効率化・利用者の利便性向上につながるモデルケースであり、世界の都市部でも導入可能な都市交通データの活用のあり方を示唆しているといえるだろう。

さらに、将来を見据えれば、リアルタイムで交通データを収集することにより、信号機のタイミングを調整したり、バスの走行順に優先順位をつけたりするなど、より効果的な交通マネジメントの実現を図ることができるのではないか。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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