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内外経済ウォッチ『欧州~ギリシャの投資適格復帰が視野に~』(2023年8月号)

田中 理

目次

ギリシャの債務危機を振り返る

今から十数年前、ギリシャに端を発した欧州債務危機が世界を揺るがした。ギリシャでは長年、脱税が横行し、公的部門が肥大化していたが、単一通貨ユーロの導入で借り入れコストが低下し、放漫財政に拍車が掛かった。前政権時代の財政赤字隠しの発覚をきっかけに、ユーロの影に隠れていた各国の信用力の差が露呈し、金利が急騰した。ギリシャは市場での資金調達から締め出されたが、加盟国間の財政救済が禁止されていた欧州連合(EU)には当時、財政支援の枠組みが存在しなかった。ギリシャ救済に対する他の加盟国世論の反発もあり、支援決定や安全網の整備に至る過程で金融市場に激しい動揺が広がった。

ギリシャは財政支援の受け入れと引き換えに、厳しい財政再建や構造改革の履行を迫られた。単一通貨圏では、為替の切り下げによる競争力の回復手段がない。厳し過ぎる財政緊縮により、ギリシャ景気は大幅に落ち込み、国民生活が疲弊した。追加支援が必要となり、債務減免が行われたが、同時に国債を大量に保有していた銀行の損失拡大で救済費用が膨れ上がり、政府債務はほとんど減らなかった。2015年に反緊縮を掲げた政権が誕生、EUや国際通貨基金(IMF)などの債権団と全面衝突し、金融支援は一時失効した。銀行からの預金流出加速などの混乱を受け、緊縮受け入れに方針転換し、2018年に金融支援を脱した。

図表1
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財政再建や政治安定で金利上昇が抑制

厳しい財政緊縮による信用力回復、構造調整と賃金引き下げによる競争力回復を受け、ギリシャの経済再建が進んでいる。新型コロナウイルスの世界的な流行(パンデミック)は、観光業が盛んな同国を直撃したが、コロナからの経済復興に必要な財政資金を加盟国に提供する欧州復興基金も支えとなり、景気は回復基調を維持している。IMFは2023年のギリシャの経済成長率を、ドイツやフランスを上回る2.6%と予想している。政局動向も安定している。5月に総選挙が行われ、親ビジネスで構造改革を重視する中道右派の現与党が勝利した。過去の選挙制度改正の影響で過半数には届かなかったが、6月の再選挙では単独過半数を確保し、政権の続投が決まった。

物価高による金融引き締めの強化が進むユーロ圏では、各国の金利が上昇基調にあるが、ギリシャの国債利回り上昇はかつてと比べて限定的だ。債務危機時に投資不適格級(ジャンク債)に転落したギリシャ国債の格付けは、財政状況改善や市場調達への復帰を受け、段階的に引き上げられてきた。現在、主要3格付け機関のうち2社がギリシャ国債をジャンク債内で最上位の格付けを付与している。そのうち1社が4月にギリシャの格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」に引き上げた。ジャンク債転落から十数年、ギリシャ国債の投資適格級への復帰が視野に入ってきた。

図表2
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田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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