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DXの視点『インド「国家政府サービスポータル」から学ぶ』

柏村 祐

インドにおける行政サービスのオンライン化が進んでいる。その要因として、網羅的に幅広い分野をカバーする行政サービスメニューの充実が挙げられる。本稿では、デジタル化が進むインドの国民の行政サービスサイト「国家政府サービスポータル」について解説する。

インドにおいては、州、地区、地方レベルの多くの政府機関が、市民の生活をよりシンプルにし、透明性と効率性を高めた行政サービスを提供している。それぞれの政府機関が提供する行政サービスは、個別にWebサイトを通じて国民に提供されている。「国家政府サービスポータル」の目的は、1つのプラットフォームに政府機関が提供するオンラインサービスを集約し、提供する行政サービスの分類をわかりやすく表示することにある。これにより国民は自分が受けたい行政サービスをすばやく検索し利用できる。行政サービスをポータル化する「国家政府サービスポータル」だが、どのような行政サービスが提供されているのだろうか。実際筆者は「国家政府サービスポータル」を操作し内容を確認してみたが、カバーする行政サービスの範囲の広さが印象に残った。2023年4月下旬時点で政府機関が提供する行政サービス数は12,431件となっている。これらは、「教育と学習」、「健康とウェルネス」、「電気、水道、地域サービス」、「お金と税金」、「ジョブ」、「正義、法、苦情」、「旅行と観光」、「ビジネスと自営業」、「出生、死亡、結婚、育児」、「年金と福利厚生」、「輸送とインフラ」、「市民権、ビザ、パスポート」、「農業、農村、環境」、「科学、IT、コミュニケーション」、「青少年・スポーツ・文化」の15種類に大分類される。

行政手続きのオンライン化が進んでいる背景には、アドハー(本人識別番号)による本人確認が大前提となっている。人口が約14億人におよぶインドでは、アドハーの登録数は2010年11月時点では0.42億人であったが、2021年3月時点で12.9億人に増加している。

以前は個人識別番号が存在しなかったため、特に福祉においては多くの不正や搾取が存在していた。たとえば食料配給においても、文字を読めない人は不当に中間搾取を受けたり、不正受給や貧困層の放置は日常茶飯事であったとされる。貧困層中心に出生届けを出さない人が多く、税金徴収や社会保障が上手く機能しなかったのである。しかし、アドハーに登録することによりアドハーカードが発行され、様々な行政サービスや社会保障を受けることが可能となった。このことから、インドにおける行政デジタル化の進展している背景には、2005年に登場したインド「国家政府サービスポータル」に掲載される行政サービス内容が充実してきたことに加えて、アドハーが国民に浸透したことがあるといえるだろう。

インドの「国家政府サービスポータル」にあたる仕組みとして、我が国ではマイナポータルが展開されている。現時点で、マイナポータルでは自分の住んでいる場所を入力すれば行政サービスメニューは表示されるものの、オンラインで完結できるサービス内容はごく一部にとどまっている。今後、日本において行政のデジタル化を推進するには、インド「国家政府サービスポータル」が実践するように、多様で網羅的な行政サービスメニューをマイナポータルに一元化し、オンラインで完結する仕組みを構築することが求められるのではないだろうか。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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