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内外経済ウォッチ『欧州~チャールズ新国王と歩む英国~』(2023年6月号)

田中 理

目次

若者の王室離れが進む英国

英国では5月6日、昨年9月に即位したチャールズ国王の戴冠式が行われた。70年振りとなった式典には、世界各国から多くの要人が出席し、新国王の門出を祝った。ただ、過去数年の英国は、欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)に伴う経済的な打撃、新型コロナウイルスの感染予防を目指した都市封鎖(ロックダウン)による経済活動の全面停止、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した歴史的な物価高などに襲われ、多くの国民は厳しい生活を強いられてきた。また、多額の王室維持費や王室関係者によるスキャンダルを巡って、王室は国民から厳しい視線に晒されている。こうした世相や世論の動向にも配慮し、今回の戴冠式では、参列者の数をエリザベス女王の即位時の約8千人から約2千人に絞り、式典の時間や祝賀パレードの行程も大幅に短縮された。

調査会社ユーガブが戴冠式の直前に行った世論調査によれば、英国民の62%が君主制の継続を支持している。2012年の75%から低下したものの、君主制廃止論者は今なお少数派だ。だが、若い世代では君主制への支持が揺らいでいる。18~24歳では君主制支持が32%にとどまり、首長公選制の支持が40%でこれを上回る。一部の国民は王室廃止の是非を問う国民投票の実施を求めている。

新たなカロリアン時代の始まり

1066年にノルマンディー公ウィリアムがイングランドを征服して以来、英国王室の歴史は1000年近くに上る(9世紀のアルフレッド大王を最初の国王とする説もある)。その間、チャールズの名前を冠した国王は、17世紀に専制政治を行い、清教徒(ピューリタン)革命で処刑されたチャールズ1世(在位1625~49年)、その子で護国卿クロムウェル失脚後に王政復古を果たしたチャールズ2世(在位1660~85年)に次ぎ、現国王が三代目となる。チャールズ2世の施政は、チャールズ(Charles)のラテン語名(Carolus)をとってカロリアン時代と呼ばれ、今回もこれを踏襲する。

前回のカロリアン時代の英国は、1650年代後半の深刻な景気後退を克服し、好景気に沸いたが、黒死病(ペスト)の流行とロンドン大火をきっかけに、再び景気後退に陥った。イングランドの実質国内総生産(GDP)は当初の8年間で48%増加し、その後の7年間で16%減少する激動の時代となった。新たなカロリアン時代は、トラス前首相の政策迷走による金融市場の混乱とともに始まったが、これを克服し、歴史的な物価高騰下でも、辛うじて景気後退を回避している。不確実性が高く将来の予測が困難な現在、新国王も先人達と同様に激動の時代を歩むことになるのだろうか。

資料1
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資料2
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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