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内外経済ウォッチ『日本~負担増が不可避となりそうな少子化対策~』(2023年6月号)

永濱 利廣

国立社会保障・人口問題研究所から新しい「将来推計人口」が公表された。これによれば、1人の女性が産む子供の数が今とほぼ変わらない前提で、2056年に人口が1億人を下回るという予測となった。

2017年の前回推計と比べると、1億人割れの時期は3年遅れることになるが、背景には、外国人の数が増えて人口減少の速度が低下することがある。そして今回の推計によれば、2070年には10人に1人が外国人になると予想している。

一方、出生数については、2016年に100万人を割り込み、2022年には80万人を割っているが、今回は推計の根拠となる出生率が前回の1.44から1.36に下方修正されたことに伴い、2059年に50万人を下回るとの予測になった。

以上の結果を基に、現在と2070年を比較すると、総人口は1億2600万人から8700万人になり、65歳以上の人口比率は20年の28.6%から70年には38.7%に上がることになる。そして、15~64歳の生産年齢人口は70年に4割減って4535万人となる。

こうした中、国立社会保障・人口問題研究所が、理想とする数の子供を持たない夫婦に理由を聞いた調査がある。これによれば、一番の理由が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」になっている。このように、少子化の一因に経済的な背景があることは明らかである。実際に、児童のいる世帯数が世帯総数に占める割合を所得分布別にみると、600万円未満の層で子供を持つ世帯の割合が10年前に比べて明らかに低下している。

こうした中、岸田政権が公表した少子化対策のたたき台によれば、経済的支援では児童手当の所得制限撤廃や、出産費用の保険適用を検討している。また、誰でも保育所を使える制度の創出や、働き方改革として男性の育休取得率を2030年に85%にした上で、育休を一定期間男女ともに取れば手取りを実質100%保障する仕組みを作るとし、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスと強調している。

しかし、児童手当の拡充だけでも多額の費用がかかり、政府内の試算によれば、所得制限の撤廃で1000億円以上、支給を高校生まで延長すれば4000億円程度が追加でかかるとのことである。政府は子供予算について倍増する方針だが、こども家庭庁の予算規模を比較対象にすると、年間4.8兆円の財源が必要になるとのことである。

これに対し、自民党は増税と国債は考えておらず、さまざまな保険料について拠出金を検討するとのことだが、経済団体からは賃上げ分がすべて社会保障に回されると賃上げの実感を得られないことから、消費税も議論の対象にすべきだとの意見も出ている。いずれにしても、われわれの負担増は不可避となりそうだ。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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