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DXの視点『エストニア電子投票システムの可能性』

柏村 祐

エストニアは2005年に世界で最初に電子投票を導入した国として知られている。電子投票の導入後の2007年に実施されたエストニア議会選挙における電子投票者の割合は5.5%であったが、2021年の地方自治体選挙では46.9%となっており、エストニアの選挙における電子投票の存在感は高まっている。

はじめに、エストニアにおける電子投票の概要を掴むために、実際の投票の流れを確認する。投票用のウェブページは、電子投票が始まる直前に公開され、選挙日の10日前の9時から選挙日の前日18時まで毎日24時間投票できる。また、電子投票の結果は、選挙当日の夜に発表される。電子投票を行うための本人確認の方法は、身分証明書とモバイルIDのどちらかを選択できる。身分証明書による投票を行う場合、身分証明書を読み取るための専用のカード読み取り装置が必要となる。一方、モバイルIDによる投票を行う場合、専用のカード読み取り装置は必要ない。

投票用のウェブページでは、身分証明書またはモバイルIDによる本人確認を完了すると、投票者の選挙区の候補者のみが自動的に表示される。候補者は画面上で政党ごとに分類されており、政党名を選択すれば、投票可能な候補者を確認できる。投票者は、候補者の中から投票したい人を選択して投票ボタンを押し、最後にデジタル署名を正常に行えば投票が完了する。また、エストニアの電子投票は、投票者が投票期間中であれば何度でも投票をし直す仕組みが導入されており、最後の投票が有効となる。

更に、エストニア政府は現状の電子投票における本人認証の更なる高度化を模索しているようだ。例えば、スマートフォンやタブレットなどのモバイル通信機器の普及に伴い、エストニア政府は、「モバイル投票の実現可能性調査とリスク分析」と呼ばれる報告書を2020年4月16日に公表している。また、電子投票における本人確認の方法として顔認証に関する分析報告書「電子投票における生体認証顔認識測定の適用」を2021年7月2日に公開している。報告書の中では、顔認証による本人確認を実施する場合、どのような対応が必要となるのか、また、導入にあたってのリスクとして何があるのかについて言及されている。このようにエストニア政府は、2005年の導入開始以来、秒進日歩で進化するテクノロジーに呼応する形で、電子投票に関連する環境整備を模索し続けている。

以上のような電子投票システムの整備により、エストニアの電子投票の利用率は2021年に46.9%まで伸展した。このエストニアにおける電子投票の価値は、「世界中のどこからでも24時間投票が可能」、「モバイルIDによる投票が可能」、「期間中であれば何度でも投票が可能」の3点に集約される。

日本においては、国政選挙や地方選挙が近づくと投票に「行こう」という呼びかけをよく聞く。公職選挙法が改正され、選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられた今、若い世代が普段使いのパソコンやスマートフォンから投票に参加できる環境を創ることは、投票率の向上につながるのではないか。

国民の民意をさらに幅広く反映する選挙を実現するという点において、投票所での投票に加えて電子投票を導入することは、投票を「しよう」という呼びかけをもたらす新たな環境を創り出し、それは、より多くの国民が選挙に参加する状況への第一歩になるであろう。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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