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DXの視点『台湾行政ポータルサイト「我的E政府」が実践する国民目線』

柏村 祐

台湾では、国民が行政サービスを簡単に受けられる仕組みとして行政ポータルサイト「我的E政府」が展開されている。

2001年に構築された当時の「我的E政府」は、政府のニュースの閲覧、行政サービスの申請書類のダウンロード、行政サービスの情報閲覧といった行政から国民への一方向の情報提供ポータルサイトであった。その後、IT技術の進歩と国民のデジタル能力の向上が進み、行政サービスの効率化と品質向上への期待が高まる中で、「ユーザー思考の欠如、ユーザーテストの不足」、「関連するサービスを見つけるために時間がかかりすぎる」、「サービス情報の読みにくさ」といった「我的E政府」の課題が認識されるようになった。そのため行政当局は、国民に対する要望調査を行い、同時にワークショップや使いやすさテストなどを実施した。これらを通じて「我的E政府」は、2020年9月25日に改定版がリリースされている。改定版では、国民の要望を反映し、一人ひとりのライフステージに対応するオンラインサービスが約600項目も提供されている。

実際に筆者は「我的E政府」のサービスを閲覧してみた。国民が分かりやすく行政サービスを利用できる仕組みの1つとして、「人生大事(生活上の出来事)」が挙げられる。「人生大事」とは、人が生まれてから亡くなるまでのライフステージを「出生」「就學」「就業」「就養」「終老」に大分類し、更に各ライフステージでは自分自身の状況に応じた中分類が表示される。例えば、大分類「出生」メニューを選択すると中分類として「2歳未満の子供」、「2~5歳の子供」、「6~7歳の子供」のアイコンが表示される。これらの中分類から自分自身が知りたいアイコンを選択すると、更に関連する小分類のアイコンが表示される。仮に大分類で「出生」のアイコンを、中分類で「2歳未満の子供」のアイコンを選択すると、小分類として「出生登録(出生日から60日以内)」、「国民健康保険(出生日から60日以内)」、「マタニティベネフィット」、「育児手当」、「予防医療」、「養子縁組、請求および後見人」の6種類のアイコンが表示される。国民は、この中から自分自身の知りたい内容を確認できる。小分類「マタニティベネフィット」を選択すれば、2歳未満の子供が受けられるマタニティベネフィットサービスとして出産補助金や出産給付金などの行政サービス内容が表示される。表示された行政サービスの中から自分に必要なサービスの情報を入手することにより、迅速に行政サービスを受けることができる。「我的E政府」では、わかりやすいアイコンと写真を活用することにより、知りたいサービスに最短でたどり着くプロセスを実現しており、利用者目線の画面設計になっていると言える。

日本では2021年9月にデジタル庁が発足した。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、日本においても行政サービスの利便性向上が求められている。台湾で「我的E政府」が普及した要因は、国民の要望調査を行い、ワークショップや使いやすさテストを実施したうえで改定したからだと筆者は考える。日本の行政サービスの効率化を迅速かつ実効性のある形で実現するために、「我的E政府」の改定方法と仕組みを学びつつ、日本独自の「国民目線の行政サービス」を実現することが求められている。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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