内外経済ウォッチ『日本~子どもを持つことは「ぜいたく」になったのか?~』(2023年1月号)

星野 卓也

目次

2022年出生数は80万人割れへ

少子化が加速している。厚生労働省の月次統計から判断すると、2022年の出生数は80万人を割れそうだ。コロナ禍の影響は和らいできたにも関わらず、減少ペースも早まる可能性が高い。2017年に社人研が示した将来推計人口で見込まれていた2022年の出生数は85.4万人(出生中位前提)。想定を大きく下振れて少子化が進んでいる。

図表1
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子どもはぜいたく?

最近は教育費の増加などから、子どもを持つことが「ぜいたく」になっている、という声が良く聞かれるようになった。

資料2は厚生労働省の「国民生活基礎調査」から世帯主が20・30代の世帯総数に占める子どものいる世帯数の割合について、所得階級別に2000年・2010年・直近公表値の2020年の値を整理したものである。いずれの年も「600~1000万円」までは年収が高いほど子どもを持つ割合が高くなっており、家計の経済環境と子どもを持つことに対する選択には関係があることがうかがえる。そして、2020年分の値をみると、「300万円未満」、「300~600万円未満」の層において、子どもを持つ世帯の割合が過去から明確に低下していることがわかる。

この間の家族観の多様化なども影響していると考えられる点には留意が必要だが、特に低中所得層の世帯が子供を持たない選択をするようになっているという傾向が確認できる。従来よりも「もっとお金がなければ子どもを持つことができない」と考える人は増えてきているのではないか。

同調査によれば、所得階級300~600万円の世帯は20・30代世帯の6割強を占めている。ボリュームゾーンの所得階級において、子どもを持つことに対する金銭面でのハードルが上がっている可能性があることは憂慮すべき事態だろう。今年4月には、各省庁に分離していた政府の子育て政策を包括する「こども家庭庁」が設置される。子育て世帯への経済面での継続的な支援、セーフティネットの枠組みを包括的に整備することが求められよう。また、子育てに対する金銭不安は老後に対する経済的な不安とも密接に関連している。政府に求められるのは将来不安を煽ることではなく、こうすれば子どもを持てる、老後の不安は解消できる、といった前向きな選択肢を提示することであり、そのための横断的な制度設計と情報発信である。「子どもはぜいたく」との認識が広がれば、少子化は尚更深刻になりかねない。

図表2
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星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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