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SDGsの羅針盤『生物多様性とは~COP15に向けて~』

牧之内 芽衣

目次

生物多様性とは

「生物多様性(Biological Diversity)」とは、地球上に生息するおよそ3000万種ともいわれる生物の生態系(森林や、里山、河川、干潟など)や種(動植物や細菌など)、遺伝子(同じ種でも形や模様が異なる)の多様性を指す言葉だ。2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、自然と共生する世界を目指す2050年までの長期目標に加え、生物多様性の損失を止めるための2020年までの短期目標及び20の個別目標が定められた。

図表1
図表1

2020年の世界経済フォーラムの報告書によると、「世界全体で約44兆ドル(世界の総GDPの半分強)の経済的価値の創出が自然資本に依存している」と推定されている。生物多様性の喪失は経済上のリスクであるとして世界で注目が集まっているものの、2022年の内閣府のアンケート調査によると、日本での「生物多様性」という言葉の意味の認知度は29.4%に留まっている。

世界自然保護基金(WWF)が公表した「生きている地球レポート2022」によれば、脊椎動物の多様性を表す指標は1970年から2018年の間に69%も低下した。乱獲や汚染、地球温暖化といった人的要因が生物多様性の損失を招いているうえ、生物多様性の損失が温室効果ガスを吸収する生態系の能力低下を招くなど、気候変動と生物多様性が負のスパイラルに陥る危険性が指摘されている。

ポスト2020生物多様性枠組への取組み

2020年までの国際目標であった愛知目標に代わり、2021年以降の新たな国際目標として「ポスト2020生物多様性枠組」の採択を目指して、現在各国間での交渉が行われている。2019年1月に名古屋で開催された「アジア太平洋地域会合」で検討が始まり、2022年12月にカナダで開催予定のCOP15(パート2)で採択される見込みだ。

生物多様性をはじめとする自然資本の毀損をストップさせ、回復に向かわせることを「ネイチャーポジティブ」という。ネイチャーポジティブに向けて、生物多様性・自然資本に関する情報開示枠組を提供する民間のイニシアチブとして、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が立ち上げられており、今後の動向が注目される。

気候変動と異なり、生物多様性への対応においては温室効果ガスの排出量のような、個々の企業や個人にとってわかりやすい目標が立てづらいなどの課題はあるものの、生物多様性の保全は持続可能な社会を構築する上で欠かせない要素だ。気候変動や人権といった課題と同様、今後は生物多様性についても企業としての積極的な対応が求められるのではないか。

牧之内 芽衣


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