内外経済ウォッチ『日本~39兆円経済対策をどうみるか~』(2022年12月号)

星野 卓也

目次

大規模経済政策を決定

政府は10月28日、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を閣議決定した。昨今の資源高・円安に伴うコストプッシュ型の物価上昇を受け、その影響緩和に主眼が置かれたものとなる。財政支出(国・地方の支出+財政投融資)の規模は39.0兆円に上る。コロナの影響が大きかった昨年末、一昨年末の経済対策に近いレベルに着地した。

内容をみていくと、中心になっているものは物価高騰・賃上げ対策(財政支出:12.2兆円)だ。ロシアのウクライナ侵攻を受け、従来から実施している燃料油価格の上昇抑制策を来年6月まで継続する。また目玉政策として、新たに電気代・ガス代の抑制策を導入、来年1月から9月まで行う。これらの電気代・ガス代・燃料油価格の抑制を合わせ、来年1~9月の家計支援額は6兆円に上ることになる。

このほか、円安メリットの活用(同4.8兆円)としてインバウンド振興などが、「新しい資本主義」の加速(同6.7兆円)として職業教育や労働移動促進を念頭に置いた「人への投資」の拡充、出産時の10万円相当の家計支援などが盛り込まれた。また、「国民の安全安心確保」(同10.6兆円)として、コロナ対応費用や防災・減災のための耐災害工事などに充てられる。今後への備え(同:4.7兆円)として、既存の「コロナ・物価高騰対策予備費」を増額するほか、「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」を新設する。経済対策における予備費の積み増しは、コロナ禍以降に定着しつつある。

使い方の精査と事後検証できる基盤づくりを

日本経済は需要不足の状態にあるほか、物価上昇も外部要因によるコストプッシュの色彩が強い。財政出動を通じて、経済対策を行うこと自体は適切な方向性だろう。

課題が残るのはその「使い方」だ。今回の対策は需要喚起というよりは家計や企業の負担増に対する「痛み止め」の性格が強い。今回の目玉政策である電気代・ガス代抑制策は期間限定の給付金であり、個人消費の増加に結び付くのはその一部である。家計の消費や企業の投資につながる形にする観点では、省エネ関連の耐久消費財購入策や設備投資にインセンティブをつける政策に一層重きを置く方が、民間の支出拡大を合わせて促せるだろう。

コロナ禍以降、「痛み止め」が経済対策の中心となっている。ただ、コロナの影響が和らぐ中で、短期の需要喚起や長期の供給力を高める投資に財政政策の軸足を移していく必要があると考える。財政政策の議論は規模の大小が注目されがちだが、規模の大きさ=政策効果とは限らない。より効果を高めるための「使い方」に工夫を凝らす必要があるのではないか。そのため、政策の事後検証を民間がより広く行える環境づくり、政策に関するデータ公開の在り方などについて、改善余地は大きいだろう。

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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