ライフデザインの視点『シニア世代の健康・余暇をめぐる視点』

北村 安樹子

目次

シニア世代が必要とする日常生活情報

働く高齢者や単身世帯の増加など、60代以降のライフスタイルは多様化しており、求められている情報やそれらを得るためのスキルにも個人差がみられる。内閣府の調査によると、60歳以上の男女が「日常生活を行う上で必要な情報」として最も多く挙げたのは「健康づくり」で、「特にない」を除けば、「年金」「医療」がこれに続いている(資料1)。

図表1
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また、「趣味、スポーツ活動、旅行、レジャー」も約2割を占めて、これらに次ぐ。生活における必要度という点では先の3項目に比べ低いものの、余暇や生きがいを楽しむという点で関心を持つ人も比較的多いと考えられる。また、60歳以降のライフステージが長期化するなか、これらの活動を通じて1人で過ごす時間に向き合っていくことや、他者とのつながりを深めることを意識する人もいるだろう。

シニア世代の多様性と関心領域

ただし、シニア世代が求める情報の内容には、自身の経済的な暮らし向きや健康状態に対する評価による違いもみられる。具体的にみると、家計や健康状態に不安を感じている人では「年金」や「医療」に関する情報を求める人が多い(資料2)。お金や病気にかかわることは、家族や友人などの親しい人にも知られたくない場合があること、個々人で異なる状況に応じた確かな情報を自ら探し出すのが難しいことなども、このような傾向に関連しているのかもしれない。

一方、家計に関し「あまりゆとりはないがそれほど心配なく暮らしている」、健康状態について「普通」とした人では「健康づくり」が最も多く挙げられている。回答者の多くを占めるこれらの人では、60代以降の長い人生を見据えて、生活習慣や健康づくりの重要性を感じている人が多いのだろう。

また、家計に「ゆとりがある」、健康状態が「良い」「まあ良い」とした人では「趣味、スポーツ活動、旅行、レジャー」が比較的上位に挙げられている。これらの人は多数ではないが、自身のライフデザインについて主体的・自律的に考える人が増えているなか、余暇や生きがいを楽しむという視点とともに、自身や他者の仕事の可能性や、地域・社会貢献といった観点から関心をもつ人もいるのかもしれない。

図表2
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「健康づくり」「余暇」への視点

そして、シニア世代の多くが「健康づくり」に関する情報を求めていることの背景には、コロナ禍による生活への影響もあるのではないか。同じ調査で、感染拡大による生活への影響についての回答結果をみると、最も多かったのは「旅行や買い物などで外出することが減った」で、これに「友人・知人や近所付き合いが減った」「別居している家族と会う機会が減った」など他者との付き合い・会合に関することが続いている(資料3)。これらの回答にも、経済的な暮らし向きや健康状態に対する評価による違いはみられるが、影響の規模という点では、外出や会合・付き合いにかかわる側面で、生活の変化を実感してきた人が多くなっている。

コロナ下の生活が長期化・常態化するなかで、外出や他者との対面機会を控える傾向が続いた人のなかには、自宅で過ごす時間が増えた時期を経験した人も多かったと考えられる。そのような経験を通じて、心身の健康づくりには、自宅で過ごす時間をよりよいものにすることとともに、外出や身体を動かす機会をもつことも重要であるとの認識が多くの人に拡がったのではないか。また、高齢期の健康を考えていく上で、外出機会の減少や活動量の低下に伴う心身の虚弱化を防ぐことが重要であるとのメッセージが様々なメディア等を通じて発信されてきたことが、高齢者や高齢期を意識し始めた人に響いた面もあったのかもしれない。

シニア世代には、コロナ禍の経験を通じて、これまで強く意識していなかった生活習慣や、仕事や趣味・余暇などの社会的な活動が、自身や他者にとってどのような意味があるのかをあらためて考える機会をもった人もいただろう。1人や少人数でも行えるか、外出や身体を動かす行動を伴うか、心身の健康状態や環境が変化した場合にも行えるか、誰かのために役立つ要素があるか。これらの気づきには、高齢期の健康づくりや余暇の過ごし方をめぐるポジティブな視点が含まれているのではないだろうか。

図表3
図表3

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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