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DXの視点『ノルウェー行政ポータル「NOREG.NO」が実践する国民目線』

柏村 祐

行政サービスのデジタル化が進む国としてノルウェーが挙げられる。ノルウェーでは行政ポータルサイト「NOREG.NO」が展開されている。

「NOREG.NO」の行政サービスはどのようになっているのだろうか。筆者は実際に「NOREG.NO」を操作してみた。行政と国民の連絡手段には、Digipostやe-Boksと呼ばれる「デジタルメールボックス」が利用される。「デジタルメールボックス」を利用するための本人認証には、5つの異なる電子ID(MinID、BankID、BuypassID、Commfides、BankIDonmobile)を利用できる。電子IDは、インターネット上で自分の身元を証明する方法で、MinIDはデジタル化局が担当、BankIDとBankIDonmobileは銀行が担当、BuypassID、Commfidesは公的に求められた電子IDプロバイダーが担当しており、国民は自分の嗜好にあわせて電子IDを選択できる。既にある「多様な電子ID」を行政ポータルのログインに使えるようにするという行政の考え方は、まさに国民目線の発想と言える。

また、行政サービス検索メニューから自分自身が知りたい行政サービス情報を探す方法は、「サービスを探す」、「最もよく使われるサービス」、「生活状況に応じたサービス」の3つに大別される。

1つ目の「サービスを探す」は、自分自身が知りたいカテゴリーを選択することで必要な行政サービス情報を確認することができる。サービスのカテゴリーは、仕事、子供と家族、健康、自然、個人と社会、税金と手数料、学校と教育、交通など、生活に関連するテーマが扱われている。

2つ目の「最もよく使われるサービス」には、国民のアクセス履歴に基づき、よく見られているサービスが表示される。例えば、「家計支出計算機」と呼ばれるサービスでは、家計の品目別の標準支出額を計算することができる。家族構成、年収、車の保有状況などを入力すると、世帯全体の「月間総予算」の内訳として、食品、衣料、衛生用品などの「個人固有の費用」、家具や電子機器などの耐久消費財などの「世帯固有の費用」が表示され、自分自身の家計管理に活用できる。

3つ目の「生活状況に応じたサービス」には、「死と相続」、「離婚」、「移動」、「子供を持つ」、「結婚」、「再就職」、「ノルウェーでの新生活」、「勉強」の8つに分類されたメニューが用意されている。例えば、「移動」メニューを見てみると、「ノルウェー国内での移動」、「別の北欧諸国への移動」、「北欧以外の国への移動」、「ノルウェーへの移動」が表示される。ノルウェー国内で引っ越しをする場合、引っ越しから8日以内に「住民登録簿」に住所の変更を報告しなければならないというルールがあるが、オンライン上で移住通知を送れば、ワンストップで引っ越し登録は完了する。

以上みてきたように、ノルウェー当局は行政サービスの利用者である国民を顧客と位置づけ、国民がいかに簡単かつ迅速に行政サービスを受けられるかを顧客価値と考え、「NOREG.NO」を提供しているようだ。日本においても、行政サービスの効率化が求められる中、利用者である国民が使いやすいように「多様な電子ID」の活用と「ワンストップサービス」で手続きを完了できるような仕組みの実装は、有力な選択肢の1つとなるのではないだろうか。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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