ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

ここが知りたい『なぜ今スタートアップ育成(5年で10倍増)なのか』

村上 隆晃

目次

2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(グランドデザイン)は、岸田政権の政策の方向性や内容を示すものである。副題を「人・技術・スタートアップへの投資の実現」としている。日本経済を立て直し、新たな成長軌道に乗せていくため、必要不可欠な財政出動や税制改正は中長期的観点から機動的に行うとされ、この際の重点投資対象として、人や技術と並んで、スタートアップ(新しい分野を開拓し、イノベーションを実現して急成長している企業や事業)が挙げられている。

その背景には、「スタートアップは経済成長の原動力であるイノベーションを生み出すとともに、環境問題や子育て問題などの社会課題の解決にも貢献しうる、新しい資本主義の担い手」(「骨太方針2022」)として期待されていることがある。

実際、世界の企業価値(株式時価総額)トップ10のうち8社はスタートアップ企業であり、スタートアップが世界の経済成長を支えているといっても過言ではない(資料1)。

図表1
図表1

グランドデザインでは、スタートアップの5年で10倍増を視野に「スタートアップ育成5か年計画」(5か年計画)を今年末までに策定することが掲げられている。

スタートアップ育成5か年計画の背景

スタートアップの育成については、これまでも内閣府や経済産業省などで、支援のための政策が策定されてきた経緯がある。そうした取組みの成果もあり、日本においてもスタートアップの起業数及び、それへの投資額はここ10年で増加傾向にあった。

今回、その取組みのギアが上がり、時の政権による重点投資の柱の一つにまで格上げされた背景には、今年3月に日本経済団体連合会(経団連)から公表された提言「スタートアップ躍進ビジョン」(ビジョン)の存在があると考えられる。

ビジョンではスタートアップ育成の目標として、毎年の起業数・投資額を10倍(約10万社、約10兆円)にして裾野を広げるとともに、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上)やデカコーン企業(同100億ドル以上)の輩出という形で成功のレベルを10倍(それぞれ約100社、2社以上)に引き上げることを掲げている(資料2)。この高い目標を5年という短い期間で産官学一体となって、一気に成し遂げることが眼目となっている。

図表2
図表2

その背景には、欧米や中国を始めとしたスタートアップ先進国では振興策が打ち出され、日本以上に起業数や投資額を増やしてきたことがある(資料3)。このままでは、日本は世界の潮流から取り残され、資金も起業を目指す人も海外に流出してしまうという強い危機感がある。

図表3
図表3

こうした強い問題意識をもった提言を受けて、グランドデザインでもスタートアップを重点投資の対象として、5年で10倍増を視野に入れた5か年計画が盛り込まれたものと考えられる。

スタートアップ育成5か年計画とは

グランドデザインでは、今年末に策定される5か年計画に盛り込まれる内容として、12の項目が例示されている(資料4)。

図表4
図表4

各項目は、スタートアップへの公的支援の拡大や資金調達に関する環境整備、起業家教育も含む人材育成など多岐に渡っている。

また、5か年計画を策定し、これらの施策を実行するための司令塔として「スタートアップ担当大臣」も8月1日に任命された。

これらの項目が実行されていく過程で、ビジョンで提言されたスタートアップの起業数や投資額、成功レベルの10倍増目標が着実に実現に向かうか注視が必要である。

2022年をスタートアップ創出元年に

グランドデザインでは、5か年計画策定と並んで、既存企業とスタートアップの連携を促進して、オープンイノベーションを加速することも日本経済再活性化のためのもう一つの方策として挙げられている。

振返ってみれば、2022年が「スタートアップ創出元年」と呼ばれる状況になっていくよう、産官学が一体となってスタートアップ育成に取り組んでいくことが期待される。

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 研究理事
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

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