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- よく分かる!経済のツボ『足元で広がる「賃上げ」とその継続に向けて』
「賃上げ」の広がりとその実情
岸田政権が「成長と分配の好循環」を掲げ、賃上げを重視する姿勢を明確化した中、今年の春闘(春季労使交渉)では企業に賃上げの動きが広がりました。連合の調査によると、今年の春闘賃上げ率は3年ぶりに2%台に回復したほか、各種報道では業績の回復を受けて、昨年岸田首相が明示した「3%」を超える賃上げを実施した企業もみられました(資料1)。
一方で、賃上げを実施する企業の中には、業績が改善していない中でも人材のつなぎ止めなどを目的にやむなく賃金を引き上げる、いわば「防衛的な賃上げ」を実施する企業もみられます。日本商工会議所が会員企業を対象に行った調査によると、昨年から賃上げを実施する企業の割合は増加したものの、その7割以上は「防衛的な賃上げ」となっています(資料2)。
同調査において企業が賃上げを実施する理由をみると、91.4%は「人材確保・定着やモチベーション向上のため」となっているほか、「物価が上昇しているため」が29.2%(21年:10.8%)と昨年から大きく上昇しています。人手不足や足元の物価上昇の影響から、一部の企業では難しい状況下でも賃上げを実施しています。
持続的な賃上げに向けた社会的な理解の必要性
政府が最低賃金を早期に全国加重平均1,000円以上にするという目標を掲げるなど、引き続き企業への期待は大きなものとなります。賃上げは従業員の処遇改善や人材確保のための「人への投資」で、この流れが継続することは非常に重要です。一方、業績が回復しない中では負担ともなります。6月の日銀短観では、経済活動制限の緩和により非製造業の景況感が上向きましたが、資源価格の高騰によるコスト増などの影響で製造業の景況感は低下し、全体では小幅な上昇にとどまりました(資料3)。また、7-9月期は景況感の低下が予想されるなど、企業にとっては難しい状況です。
企業業績の回復には、例えば、足元のコスト増による商品への価格転嫁なども必要となります。それには消費者や発注元企業などの理解が重要でしょう。持続的な賃上げの実現に向けては、企業の努力だけでなく、社会全体で取り組んでいくことが求められます。
奥脇 健史
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。