よく分かる!経済のツボ『新しい原子力発電技術~SMR・ナトリウム冷却炉~』

世良 多加紘

目次

注目が集まる原子力発電

ロシアによるウクライナ侵略をきっかけとして、原油やLNGの価格が急騰し、世界中でエネルギー安全保障に関する懸念が高まっています。こうした状況で改めて関心が寄せられているのが、原子力エネルギーです。安定的に発電可能なうえに、燃料供給国も政情が比較的安定しており、注目されています(資料1)。ウクライナ侵略以降、脱原発方針であるドイツでは、議会で原発再稼働に関して議論しているほか、日本においても、2022年4月に経済産業省が次世代の原発技術に関する有識者会合を初めて開く等、活用の議論が盛り上がっています。

ウラン資源の埋蔵量シェア(2019年時点)
ウラン資源の埋蔵量シェア(2019年時点)

新たな原子力発電技術

注目される原子力発電ですが、安全性に対する懸念から活用に慎重な意見もあります。特に日本では、福島第一原発事故をきっかけとして、安全性等を理由に廃止を求める声も少なくありません(資料2)。

安全性の向上に向けて、事故時に原子炉の燃料過熱によるメルトダウンを防ぐ、新たな原子力発電技術が注目されています。その例としては、SMR(小型モジュール炉)とナトリウム冷却炉が挙げられます。SMRとは、1基毎の出力を小さくした小型の原子炉です(資料3)。事故等で冷却機能が喪失しても小型で低出力のため自然冷却が可能という特徴をもっています。また、ナトリウム冷却炉とは、沸点が高い金属ナトリウムを冷却材として用いる原子炉であり、冷却水を用いる従来の原発と異なり、冷却材が蒸発しない点に特徴があります。

原子力発電では、一度事故が起こると甚大な被害が生じるため、安全性の確保が大前提となります。その一方で、資源を持たない日本では安定性や経済性も極めて重要となります。中長期的な観点から、安全性・安定性・経済性が実現できる電源構成のあり方に関する議論が望まれます。

今後日本は、原子力発電をどのように利用して いけばよいと思いますか(2021年)
今後日本は、原子力発電をどのように利用して いけばよいと思いますか(2021年)

従来原子炉とSMRの大きさ比較
従来原子炉とSMRの大きさ比較

世良 多加紘


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