ライフデザインの視点『「やさしい日本語」の重要性~多文化共生社会をめざして~』

水野 映子

目次

在留外国人の母語は多様

日本に住む外国人(在留外国人)の数は、外国人労働者の受け入れ拡大などを背景に、新型コロナウイルスの感染拡大前までは増え続けていた。2019年末には293万人と過去最多を記録している(資料1)。

資料1 在留外国人数の推移
資料1 在留外国人数の推移

2020年以降におけるその数は、新型コロナの感染拡大に伴う入国制限のために減ったが、それでも2021年末現在で約276万人、日本の総人口のおよそ2.2%にあたる外国人が日本に住んでいる。在留外国人は、日本社会の一員として、身近な存在になっているといえる。

在留外国人の国籍・地域は、資料2に示す通り、中国(26.0%)を筆頭に、ベトナム、韓国などアジアが多くを占めている。また、各国・地域の使用言語は、多岐にわたっている。

資料2 在留外国人の国籍・地域の内訳(2021年末)
資料2 在留外国人の国籍・地域の内訳(2021年末)

「やさしい日本語」とは

多様な言語を母語とする外国人に対して情報を伝えるため、国・自治体や事業者はこれまで様々な取組をおこなってきた。その代表格は、日本語を外国語に翻訳・通訳するという「多言語対応」である。例としては、英語・中国語・韓国語などの言語で標識やサインを表記する、パンフレットやウェブサイトに情報を載せる、窓口に通訳を配置する、などがある。

だが、日本にいる外国人のすべての母語で情報を提供することは不可能に近い。また、外国人に対しては英語で情報提供すればよいと思っている日本人もいるが、前述のように日本にいる外国人の大半は非英語圏の国・地域の出身者であり、英語がわからない人も多い。

一方で、ある程度の日本語ならわかるという外国人もいる。そこで、注目されるようになったのが「やさしい日本語」である。「やさしい日本語」とは、「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語」(注1)などとされている。この平仮名の「やさしい」には、「易しい」と「優しい」の両方の意味が込められている。「やさしい日本語」を作るポイントとしては、例えば一文を短くする、二重否定や受身・使役表現、難しい言葉は使わない、漢字にふりがなをつける、などがある。

「やさしい日本語」は、1995年の阪神・淡路大震災を機に、災害時に外国人に情報をすばやく伝えることを目的に考案された。その後、平常時に行政などが発信する情報においても、「やさしい日本語」を使う動きが広がっている。

多言語対応とともに「やさしい日本語」の認知・普及を

では、「やさしい日本語」は、日本の人々の間にどのくらい浸透しているのだろうか。新型コロナ感染拡大による入国制限がまだ一部にとどまっていた2020年2月末~3月半ばに、文化庁が実施した調査の結果をみよう。

資料3は、「日本に住んでいる外国人に対して、災害や行政に関する情報などを、やさしい日本語で分かりやすく伝えようとする取組が始まっていること」を知っているか尋ねた結果である。これをみると、「知らない」と答えた人が全体の68.1%と3分の2を超えている。年代別にみると、若い人における認知度が特に低い。

資料3 やさしい日本語で伝える取組の認知状況
資料3 やさしい日本語で伝える取組の認知状況

一方、「日本に住んでいる外国人に対して、災害や行政に関する情報などを伝えるために必要な取組」として、「やさしい日本語で分かりやすく伝えようという取組」をあげた人の割合は46.3%であった(資料4)。「様々な国の言葉で情報提供をする取組」、すなわち多言語対応の取組の58.1%には及ばないが、「やさしい日本語」で伝える必要があると考えている人が、半数程度はいることがわかる。「やさしい日本語」に関する取組がもっと認知・理解されれば、必要だと考える人もさらに増えるかもしれない。

資料4 外国人に災害や行政の情報などを伝えるために必要な取組(複数回答)
資料4 外国人に災害や行政の情報などを伝えるために必要な取組(複数回答)

外国人の日本への新規入国は、新型コロナのオミクロン株対策として一時停止されていたが、今年3月から段階的に緩和されている。新型コロナの感染拡大が収束し、日本に住む外国人や日本を訪れる外国人が再び増えれば、日本人が外国人に接する機会も多くなるだろう。「やさしい日本語」は、言語や文化が異なる外国人と日本人が互いのコミュニケーションを円滑に行うため、ひいては「多文化共生」(注2)を進めるための一手段として有効だと考えられる。

「やさしい日本語」は、行政機関や事業者などには広まりつつあるが、一般市民には十分知られていない。また、その存在を知っていたとしても、使い方のコツやルールを理解している人はまだ少ないと思われる。英語などの外国語だけでなく、「やさしい日本語」というコミュニケーション方法の存在をより多くの日本人が知り、活用できるようになることを期待する。


  • 注1:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月)より

  • 注2:総務省は、「多文化共生の推進に関する研究会 報告書」(2006年)において、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義している。


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水野 映子


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