注目のキーワード『関係人口の創出』/編集後記(2021年9月号)

神村 玲緒奈

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉で、地方創生のキーワードとして近年使われるようになりました。地方圏が、人口減少・高齢化による地域活性化を担う人材の不足という課題に直面している中、域外の人材である「関係人口」が地域づくりの担い手となることが期待されています。

一口に関係人口といっても、その地域との関わり方は様々です。国土交通省によれば、関係人口はその地域を訪問している訪問系と、ふるさと納税や地場産品等購入を通じて間接的に関わりをもつ非訪問系に分かれます。訪問系はさらに細かく分かれ、地域の活性化活動に実際に参加をする「直接寄与型」、副業なども含む自身の仕事を通じて地域企業と関わりを持つ「就労型(直接関与・テレワーク等)」、地域の人々との交流プログラム等に参加する「参加・交流型」、地域での飲食や趣味活動等を実施する「趣味・消費型」などがあります。このように、関わり方や関わりの深さは様々ですが、いずれも①日常生活や通勤・業務とは別に、特定地域と関わりがある点、②定期的・継続的に関わりがある点で、「定住人口」や「交流人口」とは異なっています。

関係人口の増加によって地域の担い手が増えると、地域住民との交流がイノベーションや新たな価値を生み、内発的発展に繋がるほか、将来的な移住者の増加も期待されます。国土交通省によれば、人口1万人当たりの関係人口(訪問系)の人数が多い市区町村の方が、三大都市圏からの転出で転入超過となる傾向にあることが確認されました。関係人口の来訪が多い地域においては、外部の人を受け入れる環境が整っている点などが影響していると考えられます。

また、関係人口の創出・拡大は、受け入れる側の地域のみならず、関わる側の人々にとっても、地域の人々との繋がりが生まれ、日々の生活における更なる成長や自己実現の機会をもたらすといった点で意義のある取組です。コロナ禍でテレワーク化が進み、物理的な距離を超えやすくなっている今、さらに多くの人が関係人口として地域と関わっていくことが期待されます。 

(総合調査部・課長補佐 神村 玲緒奈)

編集後記

デルタ株の感染拡大、4度目の緊急事態宣言、予想されたこととはいえ急激な新規陽性者数の拡大が起きている。一方で65歳以上のワクチン接種は概ね計画通りに進み、8月1日現在、2回目接種率は75.76%。全体では1回目34.47%、2回目24.59%となっている(いずれも内閣官房HPより)。日本は、接種開始は遅かったが、接種スピードは欧米と遜色ないレベルで進んでいる。しかし集団免疫獲得と言えるレベルまでには相当の距離があるようだ。

欧米を中心にワクチン接種が進み行動規制が次々と緩和、解除され経済活動が再開。マスクなしでのスポーツ観戦、レストラン、カフェの活気、空港の混雑といったニュース映像から、ワクチン接種が進めばコロナ禍から抜け出せるとの期待感も高まった。2020年はテレワーク、巣ごもり消費から製造業が好調であったが春先からは、ワクチン接種の進んだ欧州で顕著だがサービス業でも景況感が回復している。2022年にはコロナ禍を過去のものにできるかもしれないという希望的観測も聞かれる。

ただ、ここにきてワクチン接種の進んだ欧米でデルタ株による感染拡大が目立つようになってきた。ワクチン効果から死者数は抑えられており、昨年までと局面が違うことは間違いないが、以前から指摘されていたデルタ株の感染力の強さが明らかになるにしたがい、これまでの行動規制緩和一辺倒から一部規制を戻す国も出てきている。ワクチンは切り札であることは間違いないが万能ではない。

そもそも世界的にはワクチン接種は1回目28.5%、2回目14.7%(Our World in Data)。格差の問題が立ち塞がる。まだまだ長い戦いが残っているのは間違いない。(H.S)

神村 玲緒奈


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神村 玲緒奈

かみむら れおな

総合調査部 政策調査G 課長補佐(~23年3月)
専⾨分野: 教育政策、地方創生

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