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運転支援システム、既に利用している人は理解している?

宮木 由貴子


本コンテンツは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(NEDO管理番号:JPNP18012)の成果によりまとめられた記事を転載したものです。


コロナ禍で様々な予定や見込みが変更を余儀なくされたとはいえ、改正道路交通法の施行、それに伴うハイレベルな運転支援車の登場など、2020年は日本にとって自動運転の社会普及という点では大きな転換点となる年である。技術の進歩とその社会実装を支える法改正は、国際的な調整を経ながら日本国内で着実に進められてきた。こうしたなかで、やはり気になるのは、消費者意識がこれらにどう追随しているか、である。

自動運転技術の「存在」は認知されるように

経済産業省・国土交通省事業として、筆者は「自動車・自動運転に関するアンケート調査」の実施に従事している。第1回調査は2019年1月に、第2回調査は2020年1月に、いずれも全国の18-70歳の男女1万2400名を対象にインターネット調査を行った。

これによると、いわゆる自動ブレーキと呼ばれている(呼ばれてしまっている)「衝突被害軽減ブレーキ」や「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」、「定速走行・車間距離制御装置(ACC:Adaptive Cruise Control)」、「車線維持支援制御装置(レーンキープ)」など、自動運転にかかわる技術についての認知度は、第1回調査と第2回調査を比べても1年で上昇している。こうしたものが社会に“ある”ことを、多くの消費者が知るようになったということだ。これは自動運転社会に向けた、大きな一歩であるといえよう。

運転支援機能の認知度と利用状況

自動運転技術の「利用」はイマイチ

ただし、これらの技術の利用状況となると、まだまだと言わざるを得ない現状が浮かび上がる。これらの機能のついた自動車の利用状況については、この1年間で大きな上昇は見られていないからだ。

加えて、個々の技術が搭載された自動車の利用者に対し、例えば「衝突被害軽減ブレーキ」や「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」については、これらの機能がついていることを普段意識しているかどうか、「定速走行・車間距離制御装置」、「車線維持支援制御装置」などについては、これらの機能を普段利用しているかどうかをたずねると、意識している人は56%程度、機能の利用は半数前後となっており、機能体感として「すごい便利!いつも使ってるよ!」というほどではないのが現状なのだ。

消費者の理解度の低さが利用を阻んでいる可能性?

利用の低さの背景のひとつとして、これらの機能への理解度が影響している可能性がある。個々の機能の利用者に対し、それらに対する理解度をたずねたところ、「詳しい説明を受けて理解した」と回答した人はいずれの機能についても3割強にとどまっている。これらの機能が安全や利便性にかかわるものであり、自分の利用しているクルマに搭載されていることは認識しているけれども、具体的にどういう状況でどのように作動するのか、そのために自分は何をどうすればよいのかという点について、いまいちよくわかっていないという人が多いということだろう。

不理解は販売前から始まっている

では、この不理解を解消するにはどうしたらよいのだろうか。2019年8月から10月にかけて自動車公正取引協議会会員のディーラー(メーカーと直接取引のある新車販売店)の新車販売部門の責任者・担当者446人に対して実施された調査によると、「運転支援機能について説明をしているか」について、 商談時・納車時ともに95%以上が「必ず説明している」と回答している(残りはほぼ「お客様に聞かれた時に説明している」という回答)。内容は利用方法や機能限界(あくまで運転支援機能であることなど)とのことだ。

 しかし、説明後の感触としては完全に理解してもらえたという手ごたえを得ることは難しいようで、7割強が「概ね理解してもらえた」にとどまる。この背景には、消費者の過大な期待と現実の齟齬や不理解、車種・モデルごとに機能が異なることによる販売員の知識習得の難しさなど、様々な要因があるようで、8-9割の担当者が消費者への説明に苦慮していることがうかがえた。

運転支援機能利用者の理解度

不理解の自覚は非利用に、誤解は事故につながる

今後、これら技術のクルマへの機能搭載が順次義務化されていくなかで、消費者にも販売店にも「学習」という負荷がかかる。このプロセスをいかに簡素化し、負荷を下げるかが大きなキーとなるだろう。

既述したように、「保有する機能をよくわかっていない」という消費者は、折角便利で安全な機能を有していても使わず、効果体感もないという不利益を被る。一方で、機能に対して過度な期待や誤解をしている消費者は、事故を起こす可能性がある。

筆者は、自動運転の社会的受容性醸成において、「生活変化」「学習」「コスト」「固有性・機能限界」の4要素をフォローしているが、とくに「学習」と「固有性・機能限界」については、自動運転車による新たな事故の発生機会をなくす上でも非常に重要なものであると考えている。今後、協調領域と競争領域のバランスをとりながら、販売担当者が説明しやすく、消費者が理解しやすい仕組みを整えていくことは、自動運転社会への移行と安全性確保に向けて極めて重要な案件なのである。

宮木 由貴子

みやき ゆきこ

取締役・ライフデザイン研究部長
主席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、自動運転の社会的受容性醸成

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