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北谷町の小学生と考える「自動運転」

宮木 由貴子


本コンテンツは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(NEDO管理番号:JPNP18012)の成果によりまとめられた記事を転載したものです。


平成31年度の経産・国交省プロジェクトの一環で、今年の初めから愛知県の日間賀島、茨城県の日立市、沖縄県の北谷町で自動運転のワークショップを実施し、本コーナーで順に紹介してきた。今号では北谷町の子どもたちが教えてくれた自動運転の社会的受容性醸成のヒントについて考える。

まずはWHYとWHATの時間

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沖縄の人たちにとって、クルマはなくてはならない移動手段。でも、高齢者になったらどうする? 運転してくれる人がいなかったらどうなる?

沖縄の風も冷たい2月の朝、地元の小学6年生が、ワークショップ会場のヒルトンホテルにバスで来場。友だちと一緒に自動運転のクルマに乗れる課外授業ということで、緊張と興味がうかがえる(ような気がしただけか)。会場の円卓に班ごとに着席し、キラキラした目で一斉にこちらを見られると、普段の講演とは異なるワクワクがわいてくる。

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沖縄の人たちにとって、クルマはなくてはならない移動手段。でも、高齢者になったらどうする? 運転してくれる人がいなかったらどうなる?

まずは冒頭質問。彼らは「自動運転については全然知らない」に挙手。そこで私からは、「今、なぜ自動運転なのか」という、“WHY”をテーマにレクチャー。子どもたちは、こちらからの問いにも積極的に意見を返してくれるので、しゃべるほうもいよいよ楽しくなってくる。

興味深かったのは、「交通事故で亡くなる人は増加傾向にあるか、減少傾向にあるか」という問いに対し、「増えていると思う!」と回答した子どもが多かったこと。理由は「クルマの量が増えているから」。そうだね、クルマは増えている。でも実は交通事故で亡くなる人は減っているんだよ。グラフ見てごらん、1970年頃は1万7000人近く亡くなっていた年もあるけれど、今は年間3000人台。なんでだろう。

みんなでガヤガヤと考えると、「理由はひとつではない」と気づく。メーカーの人たちが頑張ってくれてクルマの性能がよくなった。衝突しにくくなったし、衝突してもエアバッグなどでダメージが小さくなるケースが増えた。道路も整備され、医療も進歩した。警察も頑張った。事故の削減は、多様な側面からいろいろな人が努力して、実現できる。そして、様々な要因のひとつ、「シートベルトやチャイルドシートをする」という、利用者(消費者)のルール順守が実はとても大切だという事実に、大きくうなずいた子たちが目立った。そう、人任せじゃだめなんだね。利用者が安全を意識して使うのが、実は一番大事。

その後、北谷タウンマネージメント&モビリティサービスの方から“WHAT”のお話、つまり自動運転の技術について説明があり、今どんな種類の自動運転があるのか、どうやって動かしているのかについてレクチャー。

みんなの頭に情報を「入れる」時間はこれでおしまい。さあ、試乗に行こう!

試乗体験は贅沢な“ちゅら海”沿いで

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こんなにかわいいデザインの自動運転に乗りつつも、「沖縄らしさ」を考える子どもたち。観光地としての自覚と地元愛を感じる

この日はたまたま気温がとくに低かったようで、東京から赴いた当方にはそれほどでもなかったが、うちなー(沖縄)キッズは「寒い寒い」と大騒ぎ。それでも自分の順番が来ると班ごとにいそいそと乗り込み、ヒルトンホテル前の美しい海岸沿いをドライブ。

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こんなにかわいいデザインの自動運転に乗りつつも、「沖縄らしさ」を考える子どもたち。観光地としての自覚と地元愛を感じる

当方もひとつの班に便乗し、彼らのおしゃべりに耳を澄ます。「意外とゆっくりだね」「観光にはこれくらいがいいよ」「観光に使うならハイビスカスとかデザインしたほうがいい(この意見は多く散見)」「椅子が固いね(この意見も残念ながら多かった)」「子どもも乗るからシートベルトがあったほうが安全じゃない?」などなど。短い距離ではあったが、初めて乗る自動運転車についてそれぞれ感じたようだった。

WHY・WHATの情報でHOWを自ら考える子どもたち

順番に試乗を終え、ホテルの円卓に戻った彼らは、最初にやってきたときのそれとは明らかに異なる顔つき(これは本当)。試乗後は、こうした自動運転を実用化するにあたっての課題とその解決についてみんなで考える時間。もうレクチャーは要らない。彼らは、どんどん“HOW”について考え、語りだす。私は円卓をひとつずつ回って、子どもたち同士が話していることに耳を傾ける。ある少年の「人がルールをちゃんと守らないといけないと思う。乗る側も、安心しすぎはダメだと思う」との意見には共感しすぎてガッツポーズをとってしまった。そのほかにも、「専用道路を作っては」「料金回収はどうしたらいいか」「監視カメラと緊急ボタンが必要」など、さっきまで「自動運転について全然知らない」としていた子どもたちが、大人顔負けの意見出し。

彼らは時間いっぱいまでしゃべり、「ありがとうございました!」と声をそろえたあと、ぺちゃくちゃしゃべりながらバスに乗って帰っていった。「こちらこそありがとうだよ……」と当方もニコニコが止まらなかった。子どもたちは、WHY・WHATの情報と試乗体験によって、自動運転との距離を確実に縮めたと思う。彼らは帰宅して、きっと家族に自動運転車に乗ったことを報告してくれる。そして人にしゃべることで、自動運転をさらに自分事化するだろう。後日彼らが書いて送ってくれたレポートには、試乗後のディスカッションで言いきれなかったことも含めて、さらに多くの情報が詰まっていた。いっぱい考えてくれて、本当にありがとう。この場を借りてお礼を言います。

自分事化と実体験が行動につながる

初となる小学生とのワークショップで学んだのは、対象者にしっかりと「刺さる」WHYとWHATの情報を選び(伝え方や手段・メディアも対象に合う形に加工することが重要)、その人なりに理解をしてもらえれば、HOWは当事者が自ら考えてくれるということ。地域の事情や環境は、その地に住む人がもっともよく知っている。「ハイビスカスの絵を自動運転車に」なんて、「宮木さん」には思いつかない。すごいな、君たち。

沖縄での小学生ワークショップは、これまでいろいろな意見を収集するべく、なるべく多様な人を集めて行っていたワークショップのスキームを見直すきっかけとなったと共に、定性データの重要性を改めて実感する機会となった。社会受容性の醸成にあたっては、「受け入れてもらいたい側」(この場合、宮木)からの一方的な情報発信ではなく、相手(子どもたち)からも情報を引き出し、相手同士の対話(子どもたち同士)や別の方向(その場にいなかった家族や先生)への発信と展開が喚起されるなど、情報が連鎖反応して広がっていく仕組みづくりが重要なのではないだろうか。

宮木 由貴子

みやき ゆきこ

取締役・ライフデザイン研究部長
主席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、自動運転の社会的受容性醸成

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