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日立市で自動運転ワークショップ開催

宮木 由貴子


本コンテンツは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(NEDO管理番号:JPNP18012)の成果によりまとめられた記事を転載したものです。


経産・国交省プロジェクトの一環で、今年2月、日立市で自動運転についてのワークショップ「ワールドカフェ」を実施した。今号では、ここから見えた自動運転の社会的受容性醸成に向けたヒントについて考える。

ワールドカフェを通じた市民・事業者・行政の対話

ワールドカフェとは、カフェのように自由でのびのびした空間を作ることで、活発な意見交換を行うことができる手法として、1995年にアメリカで開発・提唱された。ファシリテーターの仕切りで、いくつかのテーマについてメンバーの組み合わせを変えながら、4~5人単位の小グループで対話を行う。互いの意見を否定せず尊重し、つながりを意識しながら自分の意見を伝えることで、多くの人の意見に触れながら自由な発言を行う。一方的に話を聞く講演会とは異なり、多くの人の話を聞き、自分も発言をすることで、自分の見解を整理し、新たな発見をすることができるのが特徴で、近年多くの行政機関や企業でも実施されている。

筆者は永平寺町、愛知県日間賀島(前号にて紹介)、茨城県日立市、沖縄県北谷町でこうしたワークショップを運営し、地域住民の皆様の声を収集している。

日立市のモビリティ課題は「渋滞」

人口減少や少子化の加速、高齢化という、全国の地域に共通の課題を持ちつつ、地形等の理由から交通の多くが南北移動であるという日立市ならではの課題があり、慢性的な道路交通渋滞に悩んでいる。主要幹線道路の走行速度が県内最低レベルという点からも、渋滞の深刻さがうかがえる。

実際、ワールドカフェでいろいろなグループに話を聞いたところ、どの人もほぼ必ず口にしたのが日立市の「ひどい渋滞」。通勤通学の時間帯が過ぎても、業務に自動車を利用する人が多いため、一日中渋滞が続くのだという。ある人は、「朝の通勤の時間帯のピーク後、朝礼などで一旦事業所に人が入り、また業務で自動車に乗って出てくるまでの30分くらいの間が走行チャンス」などと言っていた。

一言で「モビリティ課題」といっても、モビリティ自体の不足を指す場合もあれば、渋滞によって移動に不便が生じるケースもあるなど多様であることに加え、地形的特性のような固有の課題も重要な観点だと再認識した。

高齢者の移動も課題

日立市では、この30年で自動車数が激増した一方で、路線バスの利用者は大幅に減少傾向にあり、路線バス事業者は慢性的な赤字だ。この点も、全国各地と共通の課題である。

一般に、高齢になるとバス停などまで歩いて移動して公共交通を利用するより、家のガレージから自家用車で目的地に向かうほうが楽である。「高齢だから運転が心配」となる一方で、「高齢だからこそ自家用車」との側面があるのだ。こうした点が、昨今の高齢者の免許返納を複雑にしている。

高齢者が移動せずに家に引きこもると、活動量全体が低下し、うつ病や認知症のリスクが高まる。移動の減少によって人とのコミュニケーション機会が減少し、つながりが希薄になることも、フレイル(健康と要介護の間の状態)に陥るきっかけとなる。しかし、増加した高齢者が自動車で移動することで、さらに交通渋滞が加速するという事態は、誰にとっても幸せな結果をもたらさない。高齢化率が31.6%という日立市でも、高齢者の移動は大きな課題となっている。

今後のモビリティ展開

日立市では、2019年度に(経済産業省・国土交通省の「スマートモビリティチャレンジ」の採択を受けて)MaaSの実証実験が行われており、2020年度には茨城交通が経済産業省・国土交通省の委託事業で中型自動運転バスによる公道実証実験を予定している。2018年度は、経済産業省・国土交通省の「ラストワンマイル自動走行実証事業」として、ひたちBRTでのバスの自動運転実証が行われた。

2005年に廃線になった日立電鉄線の跡地を利用した、専用道路でのBRT(bus rapid transit:バス高速輸送システム)走行が特徴だ。工業都市という特性に沿った形での自動運転の活用は、交通渋滞や少子高齢化という課題を共有する日本における先駆的なモデルとなり得ると期待されている。

日立市では、渋滞緩和や高齢者の移動手段確保として、自動運転の活用を積極的に模索している。前号で紹介した日間賀島とはまったく異なるモデルだ。

日立市は、幹線をメインに従来の路線バスを増便しつつ、住民が多い地域ではニーズに応じて走行させるデマンド交通を充実させるとともに、過疎化が進んだエリアでは自家用有償旅客運送などを用い、それらをうまくつなぐことを考案している。最終的には、多様なモビリティを組み合わせて状況に応じて選べるようなMaaSモデルを目指しているようだ。

また、日立市では小学校区を基本とした地域活動が積極的に行われており、地域活動と市行政が密な連携を図っている(今回のワールドカフェにも、こうしたネットワークを通じて地域活動に携わる住民や小学生の保護者、地域の大学生等が参加)。そうした背景もあってか、ワールドカフェでは、「コミュニティをもっとしっかり形成したい」という住民の声が印象的だった。高齢者にはもっと積極的に地域に出てきてネットワークを形成・維持してほしい、そうすれば自分たちがそうした人たちを手助けできるのに、ということをおっしゃっていた方が複数いた。そして、「自動運転はひとつの選択肢」にすぎず、「極論でいえば動く歩道でもいい」との意見もあった。これらこそ、産業界や自治体からは出にくい、住民ならではの生活者視点の声であると実感した。

モビリティは単に用を足すための移動を支える手段ではない。人と人をつなげて、地域を活性化させ、育てるものでもある。日立市のワールドカフェからは、個人の生活を充足させるモビリティの在り方だけでなく、人と人をつなげるモビリティの在り方について、改めて考えるきっかけをいただいた。

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日立市「日立市地域公共交通網形成計画」
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「今なぜ、自動運転なのか?」について熱心に耳を傾けていただいた
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意見やアイデアが続々と
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「今なぜ、自動運転なのか?」について熱心に耳を傾けていただいた
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意見やアイデアが続々と
宮木 由貴子

みやき ゆきこ

取締役・ライフデザイン研究部長
主席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、自動運転の社会的受容性醸成

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