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日間賀島で自動運転車試乗

宮木 由貴子


本コンテンツは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(NEDO管理番号:JPNP18012)の成果によりまとめられた記事を転載したものです。


名古屋から名鉄で知多半島を南に河和まで下り、そこからフェリーで20分。人口1600人、全周6kmほどの島、日間賀島。目玉は観光とタコ、フグ。初夏は潮干狩り。夏は海水浴のほか、自然のイルカと触れ合えるなど、観光資源に恵まれた小さくて美しい島である。今年の1月、ここで愛知県による自動運転の実証実験が3日間にわたって行われた。コースは、島をぐるりと回る3.6km。地元の人や観光客が乗車にトライした。筆者も試乗に参加し、美しい海を見渡すコースを楽しんだ。

本稿では、その後に行った島民の方々との意見交換を目的としたワークショップ(ワールド・カフェ)から得た、住民の声と自動運転の普及に向けたヒントについて考察する。

実はモビリティに困っていない?

自動運転の実証実験を行おうというのだから、島民はさぞかし日々のモビリティに困っているのだろうと思うかもしれない。実際、島内には公共交通はない。しかし、実は島民はそれほどモビリティには不自由していない。「ちょっと自分のクルマがなかったら、近所の車を借りればいいんだよ」「歩いていれば誰かしら通りかかるから、乗せてもらうこともあるよ」「普段は原付で移動する。自分の車は本土に停めてあるよ」ということなのだ。

それでも、観光シーズンには多くの観光客が訪れるため、旅館や民宿を経営する人たちは、お客様のちょっとした送迎のために仕事の手を止めて対応することも多々あるといい、便利な交通手段があったらいいな、という意識は持っているようだ。

カギはコミュニティ

現段階の自動運転は、安全確認のためにちょっとしたことでも几帳面に停止する上に、それほどのスピードを出して走るわけではない(むしろかなりゆっくりである)。よって、周囲の交通参加者にとっては、やや邪魔で不都合な存在になりかねないとの実情がある。そもそもモビリティにそれほど困っていない地域で、こうした乗り物は受容されるのだろうかという疑問が生じる。ところが実証実験をみる限り、自動運転の作動もスムーズ、周囲のストレスやプレッシャーもあまり感じなかった。

そこでいろいろ考えたのだが、これはどうやら、島のサイズ感と文化によって、コミュニティがしっかりと形成されていることによるようなのだ。コミュニティがあることにより、他者に対する「想像力」が働き、自然に周囲の人や環境に配慮、譲歩、協力ができる。こうした環境条件は、自動運転の社会実装と社会的受容性の醸成に向け、「新しいモビリティ社会を、住民と技術と自治体で一緒に育てる」上で、最適な土壌となるのではないだろうか。

技術とコミュニティの合わせ技

Society5.0時代といわれる現代は、技術と連携しつつ人が社会課題を解決する「人間中心の社会」といわれる。とらえようによっては、これは100%の技術が一方的に消費者を支える社会ではなく、消費者自身が社会課題解決や社会の持続性維持という共通目的のために「主体的に技術を育てる」という社会でもある。

日間賀島に果たしてそうした意識があるのかどうかは、短い滞在で検証することはできなかったが、少なくともそうした示唆を得るには十分な体験をさせていただいた。改めて、地域にはそれぞれの事情や特性、文化があり、そこに適合するモビリティもまた、それに合う形でなければならないのだということを実感した。

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漁業と観光の島で、年間30万人近い観光客が訪れます。全域が三河湾国定公園に指定されています。西と東に定期便が発着する港があります
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漁業と観光の島で、年間30万人近い観光客が訪れます。全域が三河湾国定公園に指定されています。西と東に定期便が発着する港があります
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漁車内転倒防止支援技術システムを実装した、埼玉工業大学の自動運転バスが島内を運行しました。公共交通のない日間賀島には、どのようなモビリティがふさわしいのでしょう
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漁車内転倒防止支援技術システムを実装した、埼玉工業大学の自動運転バスが島内を運行しました。公共交通のない日間賀島には、どのようなモビリティがふさわしいのでしょう
宮木 由貴子

みやき ゆきこ

取締役・ライフデザイン研究部長
主席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、自動運転の社会的受容性醸成

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