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“モビリティ・アズ・ア・ハピネス” Mobility as a Happinessの視点

宮木 由貴子


本コンテンツは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(NEDO管理番号:JPNP18012)の成果によりまとめられた記事を転載したものです。


昨今、「幸せ」「QOL」「Well-being」について考える企業が急増中だ。CHO(Chief Happiness Officer)やCWO(Chief Well-Being Officer)を設ける企業も増えている。

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こうしたなか、第一生命経済研究所では、10月に書籍「人生100年時代の『幸せ戦略』」を出版した。人生100年時代が到来した日本は、いわば人類の夢である「長生き」を実現した国だ。しかし、実際の人生100年時代は、不透明な未来への不安が大きく、正直あまり「めでたい」感じはしない。100年の人生を生き抜くためにどのくらいの蓄えが必要か、健康は維持できるのか、最後は一人暮らしになるからどうしようかなど、シビアな話題が多い。

書籍では、こうした時代をどう「幸せ」に生きるかというヒントを提示しているが、この「幸せ」にはモビリティも大きくかかわる。

筆者の父は無類のクルマ好きで、仕事も趣味もクルマ、クルマだったが、脳卒中のため、ある日突然、運転の自由をなくした。リハビリに励む父の可動域は今も屋内にとどまり、屋外は車椅子という生活だ。そんな父をたまにクルマに乗せて少しだけ遠出をすると、とても喜ぶ。そのたびに、彼にとって移動は目的地に到着するための単なるプロセスではなく、移動そのものが喜びなのだと実感する。正に、ハピネスとしての移動、“モビリティ・アズ・ア・ハピネス”である。

事業者が、消費者のニーズや地域的な必要性についてリサーチし、ビジネスやマネタイズの観点からモビリティを考えるのは当然である。しかし、消費者は単に「移動さえできれば手段は何でもいい」とは思っていないことにも留意する必要がある。

この数年、自動運転に携わり、新しいモビリティが社会に受容され、定着していくには何が必要なのかを毎日考えるようになった。安全性と制度整備や事故時の対応や保障がなされているという条件のもとで、新しいモビリティが普及するにあたり、消費者の観点からは、①利用コストが許容範囲内であること、②移動する目的(行く場所、会う人)があること、さらには、③移動していて楽しいこと(ハピネス)、が重要だと考えている。

人生100年時代は「つながり」がこれまで以上に重要とされる時代となる。人とのつながり、社会とのつながりを維持・醸成していくうえで、モビリティはこれまで以上に大きな意味をもつようになるだろう。情報通信が発達し、移動しなくても用が足せるようになったとしても、否、なるからこそ、直接対面することの価値はこれまで以上に意識される。人生100年の終盤部分をいかにして幸せに、楽しく笑って暮らせるかを考えなければ、100年の寿命を「寿(ことぶき)」などと言えないだろう。

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狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会に続く、現代のSociety5.0社会は、「テクノロジー」と「ヒト」が互いを補い合って発展する社会である。自動運転技術が、Society5.0社会のテクノロジーの最先端をけん引するだけでなく、ヒューマンの部分をしっかり見据え、ヒトのアナログな出会いやつながりを支えることで、多くの“ハピネス”を生み出すことを期待している。


【参考レポート】
「人生100年時代の『幸せ戦略』」東洋経済新報社
株式会社 第一生命経済研究所編 宮木由貴子 的場康子 稲垣円著

宮木 由貴子

みやき ゆきこ

取締役・ライフデザイン研究部長
主席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、自動運転の社会的受容性醸成

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