コロナ禍における日本国内旅行の状況

~GoToトラベルキャンペーンが一定の下支えとなるも、厳しい状況は続く~

小池 理人

要旨
  • 1回目の緊急事態宣言解除以降、持ち直しの動きが続いていた宿泊者数だが、冬季での感染状況の悪化やそれに伴う緊急事態宣言の再発令によって再び減少幅を拡大している。

  • 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、旅行者数は急激に減少し、インバウンド需要の盛り上がりによって高水準にあった宿泊施設の稼働率も急低下した。

  • 感染拡大に伴い、日本人国内旅行消費額は大きく減少。外出手控えや旅行自粛による旅行者数の減少が、国内旅行消費額減少の主要因となった。

  • 宿泊事業は損益分岐点が高く、客室稼働率低下の影響は大きい。テレワーク需要やアパートメントサービスの提供により、稼働率の回復を図り、コロナ禍を乗り越える必要がある。

緊急事態宣言発令により、足もとで大きく減少する宿泊者数

観光庁が2月26日に公表した宿泊旅行統計調査によると、1月の延べ宿泊者数は1,681万人(前年比▲61.0%)となった。緊急事態宣言の再発令やGo Toトラベルキャンペーンの一時停止により、12月の同▲40.9%から大幅に減少幅が拡大した。1回目の緊急事態宣言が発令されていた5月の同▲84.9%を底に、Go Toトラベルキャンペーンの実施や感染状況の改善により、11月には同▲30.5%にまで減少幅を縮小させたが、冬季に入り感染状況が悪化したことで再び減少幅の拡大がみられている。

インバウンドの盛り上がりから一転、2020年(暦年)の宿泊者数は大きく減少

宿泊旅行統計調査で2020年(暦年)の数字をみると、延べ宿泊者数は3億480万人泊(前年比▲48.9%)と大幅に減少した。入国制限により、外国人延べ宿泊者数が調査以来最低である1,803万人泊(同▲84.4%)にまで落ち込み、Go Toトラベルキャンペーンが実施される中でも日本人延べ宿泊者数が2億8,677万人泊(同▲40.3%)にまで減少する結果となった。これまで、インバウンド需要を牽引役として増加が続いてきた宿泊者数だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、急激な宿泊客の減少に見舞われたことが示された。

宿泊客の減少に伴い、宿泊施設の稼働率も大きく低下している。宿泊施設全体の稼働率は34.6%(2019年:62.7%)と前年差▲28.1ポイントの大幅減少となった。特に急激に稼働率が低下した宿泊施設タイプがシティホテルであり、稼働率は34.7%(2019年:79.5%)となり、インバウンド需要に沸いた2019年と比較して大きな稼働率の低下が確認できる。中でも、東京都のシティホテルの稼働率が26.8%(全都道府県中47位)や大阪府のシティホテルの稼働率が29.9%(同45位)となるなど、都市部のシティホテルの稼働率低下が顕著である。

Go Toトラベルキャンペーンの後押しの中でも、急激に減少した旅行消費額

宿泊客減少の影響は、旅行消費額からも読み取れる。旅行・観光消費動向調査によると、2020年の国内旅行消費額は9兆8,982億円(前年比▲54.9%)と急激な落ち込みとなった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、外出手控えや旅行の自粛が続く中で、国内旅行需要は急速に減少した。とりわけ、第一回目の緊急事態宣言が発令された4-6月期については前年比▲83.2%と非常に大きな打撃を受けることとなった。その後、Go Toトラベルキャンペーンが実施されたことにより、7-9月期には同▲56.6%、10-12月期には同▲46.5%と減少幅は縮小したものの、正常化には程遠い状態が続いた[1]。足もとでは、2回目の緊急事態宣言の発令とGo toトラベルキャンペーンの一時停止により、旅行需要は再び減少している。

旅行消費額が減少した最大の要因は、旅行者数の減少だ。2020年の延べ旅行者数は29,177万人(前年比▲50.3%)と大きく減少している。日本人国内延べ旅行者数は、1回目の緊急事態宣言が発令された4-6月期の前年比▲77.5%を底に、7-9月期に同▲49.2%、10-12月期に同▲42.8%と減少幅を縮小させてきたが、戻りは鈍い。Go toトラベルキャンペーンによるサポートがある中でも旅行を手控える人が多かったことが示されている。2020年の日本人国内旅行の1人1回当たり旅行支出は、33,925円(前年比▲9.2%)となった。1回目の緊急事態宣言が発令された4-6月期に前年比▲25.5%となるも、7-9月期に同▲14.7%、10-12月期に同▲6.5%と減少幅を縮小させている。旅行単価も大きく減少したが、旅行者数と比較して回復ペースは早い。需要減少の原因が感染による外出手控えや自粛であり、価格弾力性が低下していることから、需要減退の中でも積極的な値引きが行われなかったものとみられる。なお、この数字は家計による支出額であり、Go toトラベルキャンペーンによる割引支援額は含まれていない。支援額を考慮すると10-12月期の旅行単価は少なくとも前年比+7.4%に達しており、政府支出も含めた単価は上昇している[2]

客室の有効活用によりコロナ禍を乗り越える

Go toトラベルキャンペーンという政策的な後押しがありながらも、国内旅行消費へのダメージは大きい。比較的感染状況が落ち着いており、Go toトラベルキャンペーンが実施されていた2020年11月においても客室稼働率は46.2%までの回復にとどまっており、コロナ前の水準には及ばない状況である。2月17日からは日本国内でもワクチン接種が開始されているが、感染抑制効果が明確化するまでは時間を要することが想定され、客室稼働率がコロナ前の水準に回復するのは感染抑制効果が明確になった後になるだろう。

 宿泊業は装置産業的な要素が強く、損益分岐点が高い。稼働率の低下は経営の成否に直結する死活問題である。コロナ収束までの期間、稼働率を上昇させる方法として、テレワーク需要とサービスアパートメントの充実が挙げられる。コロナ禍の中でテレワークを行う必要があるビジネスマンは多く、完全な個室であるホテルには新たな需要が生まれている。また、サービスアパートメントとしての客室の提供も有効な手段となる。既に多くの宿泊事業者がサービスの提供を開始しているが、都市部の不動産価格が高騰する中で、前述の通り都市部のシティホテルの稼働率が急激に低下しており、相対的に居住地としてのホテルに割安感が出てきている。コストパフォーマンスは高く、地域によっては家賃よりも低価格な宿泊施設も少なくない。

ワクチン接種の開始により光明が見え始めてはいるものの、コロナ前の水準まで経済活動が回復するまでには時間を要することが想定される。2030年には訪日外国人を6,000万人にまで増やす目標が掲げられており、コロナ後における観光業の活躍が期待されている。観光業はコロナ禍でのダメージを最も受けやすい産業の一つであるが、この苦境を乗り越え、コロナ後に再び輝きを取り戻すことが期待される。


[1] 旅行・観光消費動向調査における消費額は家計における支出額であり、Go toトラベルキャンペーンに伴う割引分は考慮されていない。観光庁によると、7月22日~12月28日チェックアウトまでの間に少なくとも5,399億円の支援額の支出があったとされており、この金額を考慮すると2020年の国内旅行消費額は10兆4,381億円(前年比▲52.4%)になる。また、10-12月期には少なくとも4,002億円(7月22日~2月28日チェックアウトまでの間の割引支援額5,399億円から7月22日~10月15日までの割引支援額1,397億円を引いたもの)の割引支援がなされており、10-12月期の国内旅行消費額は少なくとも3兆937億円(前年比▲38.5%)程度の水準まで回復したと考えられる。

[2] 4,002億円(7月22日~2月28日チェックアウトまでの間の割引支援額5,399億円から7月22日~10月15日までの割引支援額1,397億円を引いたもの)の割引支援額を加算して単価を算出。ただし、15%分のクーポンについては日用品等、観光以外の消費に用いることも可能であり、全てが旅行消費に向けられているわけではない点は割り引いて考える必要がある。

小池 理人


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