暮らしの視点(20):性別役割分業観の揺らぎ

~「働く場が外」だった時代の次へ~

北村 安樹子

目次

仕事と家庭をめぐる男女の役割分業観をたずねる設問には様々なものがあるが、よく知られる設問の1つに「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」というものがある。この設問で問われてきたのは主に、「働く人が夫、家庭を守る人が妻」という男女の役割分担をめぐる意識であり、働く女性の増加や価値観の変化等を背景に、近年ではこのような規範を積極的には支持しない人が増えている。

この設問には、働く場が自宅以外の場所にあるという職住の場の設定に関する暗黙の前提が含まれている。デジタル化の進展にともなうテレワークの広がりや、コロナ禍にともなう外出自粛といったライフスタイルの変化は、この設問が含む「働く場が外」という設定や視点の置き方に、現代の感覚とのずれを感じさせる面もあるのではないか。

本稿では、この設問がたずねてきた従来の男女の役割分業意識の変化の傾向とともに、テレワークの広がりやコロナ禍以降の在宅時間の増加にともなう家事と仕事の分業の捉え方の変化について考えてみたい。

1.「働く人が夫、家庭を守る人が妻」という設定の揺らぎ

政府や企業等が行うアンケート調査で「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という意見についてどう思うかをたずねる項目をみたことのある人は多いだろう。例えば内閣府が20~40代の男女を対象として、定期的に行っている調査にも、この設問が含まれている(注1)。

日本の男女の回答結果をみると、直近ではこの意見に「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」とした人の合計割合が4割程度まで減少し、「反対」もしくは「どちらかといえば反対」とした人が6割近くを占めて多数派となった(図表1)。この年代の人々の意識は過去5年で大きく変化し、「働く人が夫、家庭を守る人が妻」という役割分業の形に反対とする人が賛成とする人を上回るようになった。

ただ、日本では明確に「反対」とした人の割合が2割程度にとどまるが、ドイツでは4割弱、フランスでは5割弱、スウェーデンでは9割近くを占める(図表2)。日本ではこのような意識に反対する人が急速に増えているが、これらの国々に比べるとまだ少ない状況にあるということになる。

図表 1 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方への意識
図表 1 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方への意識

図表 2 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方への意識
図表 2 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方への意識

2.「働く場が外」という設定の揺らぎ

このように、働く人と家庭を守る人の役割分業をめぐる日本の男女の意識は、5年前に比べ大きく変わりつつある。また、コロナ禍にともなう在宅時間の増加や、働く場所や働き方の変化といったライフスタイルの変化は、この設問が含む「働く場が外」という設定に、現代のとのずれを感じさせる面もあるのではないだろうか。

例えば、コロナ禍以降のライフスタイルの変化で自身や家族の在宅時間が増えて、家事や家族のケアをめぐる役割分担の変化を経験した家庭もあっただろう。このなかには特定の人の負荷が高まったケースが含まれる一方、仕事の場が自宅内や自宅近くになった人が、以前よりも家事や家族のケアを行いやすくなったケースもあったと考えられる。コロナ前よりも在宅時間が増加して増えた家事の効率化・省力化への関心が高まったケースもあったのではないか。

3.ウィズコロナの協業バリエーション

筆者の周囲では、家電製品など新たな機材・商品・サービスを導入して家事を効率化・省力化したケース、夫が自宅で仕事をする日は通勤に要していた時間を家事や家族のケアに充て、職場で働く妻が仕事に集中しやすくなったケースなどがみられた(注2)。ライフステージにもよるが、これらの事例のように、在宅時間の増加を経験するなかで、家事の負担を減らす工夫をしたり、外で仕事をする人と自宅で仕事をする人の組み合わせに応じて分業・協業のバリエーションを増やすなど、制約を感じがちなコロナ禍の日々をポジティブなものにしようとする行動も多かったのではないだろうか。

そのように考えると、従来の性別役割分業観に反対する人が増えていることには、「働く人が夫、家庭を守る人が妻」という固定的な分業体制や、「働きながら、家庭も守る」という役割に関する男女間の不均衡に違和感を覚える人が増えているだけでなく、家庭における多様な協業バリエーションをコロナ禍で認識した人が多いことも関連するのではないだろうか。そして、「夫の働く場が外」で、自宅にいる人は働かなかった時代の次を志向する、新たなライフスタイルや協業の形を模索する家族や個人が増えている可能性もあるだろう。

【注釈】
1)このほか内閣府が不定期で行っている「男女共同参画社会に関する世論調査」、国立社会保障・人口問題研究所が定期的に行っている「出生動向調査」などにも同様の設問がある。
2)一方で、失業期間があったことや、コロナ禍の影響で職場での仕事が減ったことで、家事や家族のケアをめぐる夫婦の役割分担が変化したケースもあった。

【関連レポート】
1)北村安樹子「暮らしの視点(8):親子の「程よい距離感」への新たな志向~リアルの「近さ」がもたらす安心と自立のバランス~」2021年4月。
2)北村安樹子「暮らしの視点(11):外出の自粛と家族関係~自宅で過ごす時間、自宅を離れる時間の意味~」2021年6月。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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