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DXの視点『eシールを活用したハンコ革命』

柏村 祐

eシールの登場

組織の正当性を証明するのが社印だが、これに相当するデジタル上のハンコをeシールという。請求書や領収書にeシールを付与することで、社印の押印と同様の効力が発生する。eシールを使えば、押印作業は必要無くなり、郵送は電子メールに置き換えられ、受け取る企業においても郵便受付はメール受信に代替される。

eシールは、2016年7月にEU域内において発行されたeIDAS規則(The Regulation on electronic identification and trust services)において規定された。eIDAS規則にはeシールの他に、電子署名、タイムスタンプ、ウェブサイト認証、eデリバリーと呼ばれるトラストサービスが公的に認定されている。これらのトラストサービスは、EU域内の国民や企業活動を円滑化することを目的として創られ、それぞれ役割を担っている。

一連のトラストサービスについては、国別にプロバイダー一覧が閲覧可能となっており、利用者はどのプロバイダーがeシールを提供しているか確認できる。EUではeシールの実装が進んでいる。例えば、エストニア発のX-Roadと呼ばれる官民連携基盤において税金、健康、保険、医療、銀行など多岐にわたるサービスがオンラ イン上で展開されている。組織間で情報連携する際に、送信元サーバーにてeシールを付与するため、送信元組織の正当性が証明される。

資料1
資料1

変革のための活用

eIDAS規則に規定されている電子署名やタイムスタンプは、既に日本において法制化されており、組織の代表者を証明する代表印の代替として利用可能である。一方、組織の正当性を証明するeシールは未だ法制化されておらず、請求書や領収書への社印の代替手段は見当たらない。総務省トラストサービス検討WGの最終取りまとめによれば、eシール導入による効果について、経理業務の場合、大企業1社あたり現状月10.2万時間かかっている業務量が月5.1万時間に半減するとの試算が示されており、生産性向上が見込める取組みと言える。

日本の歴史を振り返れば、黒船来航や先の敗戦など社会システムを大きく変えなければならない困難に直面した際に、法律や慣習といった決まり事が大きく変化してきた経緯がある。新型コロナウイルス感染拡大の先行きは不透明であるものの、この困難を変革のきっかけにすることが求められる。eシールの活用を、ウィズコロナ時代に必要な新しい働き方への第一歩とすべきではないだろうか。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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