日本株を動かす半導体と自動車(3月鉱工業生産)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月145程度で推移するだろう。
  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。
  • FEDは7月に利下げを開始、FF金利は年末に5.00%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。S&P500は▲1.6%、NASDAQは▲2.0%で引け。VIXは15.7へと上昇。

  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.404%(▲0.8bp)へと低下。
    実質金利は2.274%(+7.4bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲35.7bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは157後半へと上昇。コモディティはWTI原油が81.9㌦(▲0.7㌦)へと低下。銅は9991.0㌦(▲144.5㌦)へと低下。金は2302.9㌦(▲54.8㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

経済指標

  • 4月CB消費者信頼感指数は97.0へと6.1pt低下。現況(146.8→142.9)と期待(74.0→66.4)が共に軟化。強すぎる消費意欲が収まり、インフレが沈静化に向かうという視点では朗報であった。雇用統計の先行指標として有用な雇用判断DIも+25.3へと4.2pt低下。労働市場において求職者が著しく優位な状況が終焉したことを示している。

CB消費者信頼感指数
CB消費者信頼感指数

CB消費者信頼感指数(雇用判断)
CB消費者信頼感指数(雇用判断)

  • 米雇用コスト指数(1Q)は前期比+1.2%と市場予想(+1.0%)を上回り、前期比年率では+4.8%へと加速。前年比は+4.2%と概ね横ばいだが、先行きは再加速が懸念される。この指標は刈込平均CPI(変動率の大きい上下8%に該当する品目を除外して算出、クリーブランド連銀試算値)など基調的な物価上昇率を表す指標と連動性を有する。このような、労働コスト高止まりがインフレ低下を阻害していることを示すデータは、Fedのインフレ認識に上方修正を迫る。

雇用コスト指数(ECI)
雇用コスト指数(ECI)

CPI ・雇用コスト指数
CPI ・雇用コスト指数

  • 2月ケース・シラー住宅価格指数は前月比+0.61%と直近の基調を大きく上振れた。もっとも、3ヶ月前比年率(3ヶ月平均)では+3.77%へと減速基調にあり、前年比伸び率は現在の+7.29%から幾分減速が見込まれる。この指標に1年程度遅行するCPIベースの家賃はしばらく鈍化を続けた後、再加速する公算が大きい。

ケース・シラー住宅価格指数
ケース・シラー住宅価格指数

ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃
ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃

注目点

  • 日本の3月鉱工業生産は前月比+3.8%と経産省予測値(同+4.5%)を下回ったものの、市場予想(同+3.3%)は上回った。自動車生産が同+9.6%と大幅に回復した他、電子部品・デバイス工業が同+9.2%の大幅増産となった。先行きは、自動車生産の(1・2月の垂直的落下からの)急速な回復と、IT関連財(電子部品・デバイス工業、生産用機械に分類される半導体製造装置、化学に分類される半導体部材等)の増産が強まると期待されることから、全体として増産傾向が続く見込み。

  • 4月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は4月が前月比+4.1%、5月が+4.4%と増産の見込みが示された。経産省が(生産予測指数の上振れ)バイアスを補正した4月の予測値は▲1.0%と弱めの数値だが、当試算値は特殊要因を上手く捕捉できない傾向にあるため、今回のように自動車生産の回復が高確度で期待できる状況では、予測精度が低下することに留意する必要があろう。輸送機械工業の生産計画は4月に+6.1%、5月に+10.5%と2ヶ月連続の大幅増産が見込まれている。自動車は、本格的な工場再開に加え、過去数年の世界的供給制約(半導体不足)によって積み上がった潜在的な需要を背景に息の長い増産が期待できる。また自動車ローン金利の急上昇が足かせとなり販売が頭打ちになっている北米市場では、年後半に予想されるFEDの利下げが追い風となろう。

鉱工業生産指数
鉱工業生産指数

生産 自動車工業
生産 自動車工業

  • 株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業の生産に目を向けると、3月の生産は前月比+9.2%、前年比では+10.4%とプラス拡大。この間、世界半導体売上高はAI向け半導体の需要が爆発的に増加するのをよそに、ノートPCやスマホの需要が力強さを欠く中で従来品の引き合いが弱いことから、前サイクルの頂点よりも低い水準に甘んじているが、そうした下でも本邦企業においては、在庫調整が進展したことで製品需給は引き締まる方向にある(半導体製造装置も似た構図)。生産計画は4月が▲1.6%、5月が+4.2%と均してみれば増産が見込まれている。

IT関連財 生産
IT関連財 生産

世界半導体売上高
世界半導体売上高

  • 電子部品・デバイス工業は3月に出荷が前年比+3.0%とプラス圏に浮上し、在庫は▲33.6%と一段と減少。出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は+36.6%と7ヶ月連続でプラス圏推移し、3ヶ月平均でも+36.0%と大きくプラスに突き出た。在庫循環図の位置取りは、左下領域(在庫減・出荷減)から右下方向(在庫減・出荷増)に移行。過去の経験則に従えば、今後は出荷増に対応するための積極的な在庫積み増しによって右上領域(在庫増・出荷増)に進路をとると期待される。

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

  • 長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと日経平均株価は連動性を有してきた。株価指数において半導体を直接手掛ける企業の存在感は必ずしも大きくはないが、半導体製造装置や化学品など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体のうねりを作り出すという構図が背景にある。今後ノートPC・スマホの販売低迷が長期化したり、データセンタ向け投資の抑制が続いたりして需給バランスの好転が遅れる可能性はあるが、AI向け半導体の爆発的需要やコロナ初期局面にあたる2020年に購入されたPCの一部が買い替え期に差し掛かることで、新たな需要が発生することでIT関連財市況は持ち直しが期待される。

日経平均・出荷在庫バランス
日経平均・出荷在庫バランス

藤代 宏一


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