為替次第であり得る日銀の7月利上げ説 賃金加速の証拠が積み上がる

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。

  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。

  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.75%(幅上限)への低下を見込む。

目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。S&P500は▲0.0%、NASDAQは+0.0%で引け。VIXは15.2へと低下。

  • 米金利はツイスト・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.391%(+1.7bp)へと上昇。
    実質金利は2.028%(+0.2bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲37.3bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは151後半へ上昇。コモディティはWTI原油が86.4㌦(▲0.5㌦)へと低下。銅は9411.5㌦(+82.0㌦)へと上昇。金は2331.7㌦(+6.0㌦)へと上昇。

注目点

  • 8日に発表された毎月勤労統計は日銀の早期利上げ確率をやや高めたと判断される。筆者は次回の利上げ時期を賃金・物価データの蓄積が進む10月と予想しているが、7月にも日銀が動く可能性はあるだろう。

  • 春闘が反映される前の段階である2月の一人あたり賃金は所定内給与(≒基本給)が前年比+2.2%と節目の2%を超えた。新年度入りした12月決算企業の(新年度)賃金が統計に完全に反映された可能性が指摘できる。この指標は確報で下方修正される傾向にあることから速報値の強さは要割引きであるが、それでも賃金上昇の足取りがしっかりとしてきたことを印象付ける。所定外給与(≒残業代)が同▲1.0%と減少したことによって現金給与総額は同+1.8%に留まったものの、賃金の根幹である所定内給与の伸びが高まったことはインフレの持続性を高めると判断して良いだろう。基調的な賃金を読む上で重視すべき一般労働者(≒正社員)の所定内給与は+2.4%へと伸びを高めた。日銀は賃金を起点とする物価上昇に自信を深めたと思われる。

  • 植田総裁は3日に朝日新聞の単独取材に応じ、2%の物価目標達成の確度がさらに高まれば、追加利上げを検討するとの認識を示し「夏から秋にかけて春闘の結果が物価にも反映されていく中で、目標達成の可能性がどんどん高まっていく」と発言した。市場関係者の次回利上げ予想時期が「10月」に集中する中、あえて「夏」に言及したのは7月の追加利上げを市場参加者の予想の「選択肢」に加えておきたいという意図があったように思えて仕方がない。

  • もっとも、次の利上げはマイナス金利解除とは異なり、変動型の住宅ローン金利の上昇を招くなど、相応の引き締め効果が予想される。変動金利型の住宅ローン契約者の多くが金利上昇を初めて経験することになるため、僅かな利上げが将来の不透明感増幅を通じて過剰な生活防衛に繋がってしまう可能性は否定できない。夏には定額減税(6月以降に支払われる給与等から所得税・住民税が4万円減税)の効果が期待できるとはいえ、電ガスの負担増加(再エネ賦課金の増加、政府支援の段階的終了)もあり、個人消費の停滞が長期化する恐れがある。日銀が個人消費の先行きをどう判断するかが金融政策を読む上で重要になってきそうだ。

  • その点、日本は米国と同様に物価が中央銀行の目標を上振れて推移している一方、個人消費の基調は微減であり、ここに決定的な違いがある。日銀が算出する実質消費活動指数は2023年央で回復が頭打ちとなっている。また日銀が賃金・物価の前向きな循環を確認する上で重視しているサービス物価については、その上昇がインバウンド需要によって押し上げられている宿泊業に集中しており、必ずしも内生的とは言えない。お世辞にもデマンドプル型のインフレとは言い難く、そこに金融引き締めを講じる必要性は乏しいように思える。そうした観点から筆者は引き続き追加利上げは10月であるとの予想を維持する。ただし為替が更なる円安となった場合などは名目賃金の強さを根拠に日銀が7月を選択する可能性がある。

藤代 宏一


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