6月の利下げ開始はインフレ次第 強い雇用それ自体は問題ではない

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。

  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。

  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.75%(幅上限)への低下を見込む。

目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+1.1%、NASDAQは+1.2%で引け。VIXは16.0へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.374%(+1.2bp)へと上昇。
    実質金利は2.026%(+8.1bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲35.1bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは151後半へ上昇。コモディティはWTI原油が86.9㌦(+0.3㌦)へと上昇。銅は9329.5㌦(▲29.5㌦)へと低下。金は2325.7㌦(+36.9㌦)へと上昇。

注目点

  • 3月米雇用統計は労働市場の厚みを伴った拡大とインフレ沈静化の併存を示す望ましい結果であった。雇用者数は前月比+30.3万人と市場予想(+21.4万人増加)を大幅に上回り、なおかつ過去2ヶ月の数値も2.2万人分が上方修正された。同時に平均時給は前月比+0.1%、前年比+4.1%へと減速。インフレ沈静化の「ラスト・ワンマイル」はなお遠いものの、着実な前進がみられている。雇用統計を通過後、6月までの利下げ確率は5割程度に低下したが、今後CPIなどインフレ指標が鈍化すれば、利下げ観測が復活する可能性が大きいと筆者は判断している。

  • 上述の通り雇用者数は+30.3万人と強かった。もっとも、見た目の数値とは裏腹に労働市場の過熱を示す内容ではなかった。まず、2月と同様にフルタイム労働者が減少したことがある。2023年央以降の傾向として、フルタイム労働者が頭打ちとなる中でパートタイムの増加が顕著になっており、この傾向は3月も続いた。副業の増加による(雇用者数の)二重計上問題など統計作成上の技術的な難しさもあり、労働市場の量的な強さが誇張されている可能性が指摘できる。レジャー・ホスピタリティ(+4.9万人)、建設(+3.9万人)、小売(+1.8万人)、卸売(+0.9万人)などは副業による増加によって実態よりも数値が押し上げられているのかもしれない。また、ここ数ヶ月の傾向として雇用者数の増加が教育・ヘルスケア(+8.8万人)と政府部門(+7.1万人)という、景気にさほど敏感でない業種に集中していることも重要。雇用者数の増加が示すほど労働市場は過熱していない可能性がある。そうした下で週平均労働時間は34.4時間へと小幅ながら長期化したものの、コロナ期前の下限付近で推移している。

  • 失業率は3.8%へと0.1%pt低下(小数点2桁では3.86%→3.83%)。直近ボトムである2023年4月の3.4%から小幅に上昇しているものの、景気後退を象徴するような水準には程遠い。失業者を広義の尺度で捉えて算出するU6失業率(フルタイムの職が見つからず止む無くパートタイム勤務に従事している人を失業者と見なす)も7.3%と安定している。

  • 労働市場の厚みを示す労働参加率は62.67%へと上昇(2月:62.54%)。パンデミック発生後の最高値である62.81%(2023年8月)に近づき、潜在的に達成可能な水準(CBOによる推計値)も凌駕している。3月は働き盛り世代の25-54歳(83.5%→83.4%)が小幅に低下した反面、55歳以上(38.5%→38.6)が上昇した。

  • 賃金インフレの帰趨を読む上で重要な平均時給は前年比+4.1%(2月:+4.3%)へと鈍化した。前月比では+0.35%(2月+0.17%)へと加速し、瞬間風速を示す3ヶ月前比年率も+4.14%(2月+4.03%)と小幅ながら加速したものの、同3ヶ月平均では+4.35%(2月+4.29%)と加速感が和らいだ。依然として賃金インフレのしつこさを印象付ける数字であるが、フルタイム労働者数の頭打ち、求人件数の減少、自発的離職率(数値上昇は待遇改善を求めて労働者の転職活動が活発化していることを示す)の低下といった賃金インフレの沈静化を示すデータを踏まえれば、先行きも鈍化傾向を辿る公算が大きいと判断される。

  • 3月雇用統計はフルタイム労働者数の頭打ち、平均時給の鈍化といった弱めの数値を内包しており、この点において利下げを支持する結果であったと言える。またパウエル議長は雇用者数の増加は移民増加によってもたらされていることから、それ自体が利下げを躊躇う直接的な理由にはならないとしている。ただし、それでも20万人を超える雇用者数の増加や4%以下で安定する失業率が利下げの緊急性を減じることに疑いの余地はない。6月の利下げはインフレ指標の更なる鈍化が条件となるだろう。

藤代 宏一


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