まだまだ使える製造業と株価の関係

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。

  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。

  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.75%(幅上限)への低下を見込む。

目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。S&P500は▲0.2%、NASDAQは+0.1%で引け。VIXは13.7へと上昇。

  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.346%(+2.2bp)へと上昇。 実質金利は1.962%(+8.9bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲39.8bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは151後半へと上昇。コモディティはWTI原油が83.7㌦(+0.5㌦)へと上昇。金は2236.5㌦(+19.1㌦)へと上昇。

注目点

  • 4月1日に発表された3月米ISM製造業景況指数は50.3と大きく改善。2月から2.5pt上昇、市場予想の48.3も上回った。ヘッドラインを構成する5つの項目に目を向けると、生産(48.4→54.6)と新規受注(49.2→51.4)が双方とも一気に50を回復し、雇用(45.9→47.4)も上向いた。その他ではサプライヤー納期(50.1→49.9)が短縮化しヘッドライン下押しに寄与、在庫(45.3→48.2)は増加しヘッドライン押し上げに寄与。1~2ヶ月先の生産活動を読む上で有用な新規受注・在庫バランスは小幅に下方屈折したものの、大きくみれば上昇傾向にある。

  • ISM製造業のヘッドラインが50を超えたのは2022年10月以来であり、製造業の循環が本格的に回復局面入りしたことを印象付ける。ハードデータの米鉱工業生産統計における「製造業生産」も前年比プラス圏の回復が近づいており、単なる企業マインドの改善ではないことが示されている。ここで今次サイクルを概観すると、コロナ期の初期段階においてサービス業の需要が財に移行したことで製造業は特需に直面し、ISM製造業は60超で長時間推移した。しかしながら、その後は特需が剥落する下、需要の先食いによってスマホ、PCの販売が低迷するなど「山高ければ谷深し」とも言うべき状況となり、ISM製造業は50以下での推移が長く続いた。もっとも、2023年央頃になると自動車生産の回復や半導体工場の旺盛な投資等によって生産活動は底打ちし、ISM製造業も上向き始めた。先行きも世界的な半導体市況の回復と高水準の自動車生産によって製造業の回復が継続すると予想される。

  • 米国株がM7と呼ばれる一部の巨大企業によって牽引されているのは事実であるが、不思議なことにISM製造業との関係は現在も保たれており、ISM製造業とS&P500の予想EPSを同じグラフに描くと、両者の波形の一致が確認できる。現在、予想EPSが前年比+10%程度へと加速感を強めているその背景にISM製造業の回復があることは株式市場における製造業の重要度が今もなお高いことを物語る。もちろんISM製造業は株価との連動性も強い。ISM製造業とS&P500の6ヶ月前比(差)に目を向けると、最近の株価上昇はFEDの利下げ観測を追い風に、やや行き過ぎている感は否めないものの、それでも方向感は一致しており株価上昇率が著しく上方乖離している訳でもない。過去の循環パターンに鑑みれば、今後ISM製造業は50後半~60に向けて上昇していく可能性が高い。そうした下でS&P500は上昇基調を維持すると期待される。FEDの利下げ観測が後退するなどして株価が頭打ち感を強める可能性はあるものの、長期的な下落は想像しにくくなった。

藤代 宏一


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