株価上昇のバトンは「半導体」から「PBR1倍」へ

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月38,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は4月にマイナス金利を解除した後、当分の間、金利を据え置くだろう。
  • FEDは5月に利下げを開始、FF金利は年末に4.50%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。S&P500は+0.0%、NASDAQは▲0.3%で引け。VIXは13.8へと低下。

  • 米金利はブル・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.291%(▲2.4bp)へと低下。
    実質金利は1.955%(▲5.2bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲44.6bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは150半ばへと上昇。コモディティはWTI原油が76.5㌦(▲2.1㌦)へと低下。銅は8567.5㌦(▲17.0㌦)へと低下。金は2038.6㌦(+18.9㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 日経平均株価が1989年12月以来となる最高値を更新したことで、当時と現在を比較する報道が相次いでいる。専門家のコメントの多くは「現在の株価は業績見合い」であり、筆者も同感である。実際、名目GDPは600兆円の大台到達をほぼ達成している。デフレによって金額ベースの経済規模が膨らまないどころか萎む環境にあった、1990年代後半から2010年代前半にかけて名目GDPは長らく停滞したが、リーマンショックや欧州債務問題の傷が癒え、アベノミクスが開始された2013年頃からは順調な拡大基調に復している。それと整合的にTOPIXのEPSは増加してきた。

日本 GDP・企業成長率
日本 GDP・企業成長率

  • もっとも短期的な視点でみると、過去数週間の日経平均株価はやや割高感が認められる。予想PERは(新聞等で用いられている)時価総額加重平均ベースでみれば16.5倍程度と比較的割安な領域にある一方、みなし額面を基に算出される指数ベースでみると23.2倍と過熱感が否めない。バブルと言うには程遠いが、それでもコロナ期の異常値的な状況を除くと、2015年以降では最も高い水準にあり割安とは言い難い。指数ベースのPERが高まっているのは、AIブームの時流に乗って指数寄与度の大きい半導体関連銘柄が買われていることが主因。筆者は少数の銘柄によって日経平均株価が牽引されることを以って「指数が歪んでいる」とは思わないが、強さが半導体関連銘柄に集中している以上、株価指数が半導体関連の悲報に対して脆弱であることは認識しておく必要があるだろう。なお、年初来の日経平均株価上昇幅5,634円(+16.8%)のうち半導体製造装置2銘柄の寄与が約1747円と約3割を占めている。

日経平均 予想PER(指数ベース)
日経平均 予想PER(指数ベース)

  • こうした数字を踏まえると、相場全体に過熱感が広がっている訳ではない、という見方も可能だろう(だからこそ時価総額ベースのPERは16.5倍で落ち着いている)。たとえば日経平均採用銘柄のうちPBR1倍割れの銘柄数は90程度と年初来の株価上昇で幾分減少したとはいえ、依然として多い。このことはBPS(一株当たり純資産)の増加速度に株価上昇が追いついていない企業が多いことを浮き彫りにしている。円安によって外貨建資産の評価益が拡大しBPSが押し上げられても、株価はそれほど素直に反応していないということだろう。

PBR1倍割れの企業数(日経平均採用銘柄)
PBR1倍割れの企業数(日経平均採用銘柄)

日経平均 予想BPS
日経平均 予想BPS

PBR1倍割れの企業数(日経平均採用銘柄)日経平均、予想BPS
PBR1倍割れの企業数(日経平均採用銘柄)日経平均、予想BPS

  • つまり今後の日本株は「半導体以外」の銘柄、特にPBR1倍近辺の銘柄群にかかっていると言える。PBR1倍割れの解消が進展するとしたら、そのきっかけはやはり資本効率改善の本気度が示される本決算のタイミング(4月下旬から5月末頃まで)であろう。3兆円を超える自社株買いが発表され、投資家の要求を満たした2022・23年の5月に続き、今年もその規模の自社株買いが発表されれば、相場の牽引役は「半導体」から「PBR1倍割れ解消」に引き継がれるのではないか。

日本 自社株買枠設定額
日本 自社株買枠設定額

藤代 宏一


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