マーケット見通し『厳選指標』(2024年4月号)

藤代 宏一

要旨

このページでは筆者が注目する指標を四半期に一度解説します。常に変化する金融市場参加者の関心を踏まえ、その時々の重要指標を選定します。

  • 「実質GDP成長率がマイナスなのに、なぜ株価は高いのか」という頻出の疑問があります。これに対しては「脱デフレによって、金額ベースで経済活動を捉える名目GDPの拡大が続いているため」という模範解答があり、現在の株高もこれで基本的には説明可能と考えられます。

  • 実際、名目GDPとEPS(一株当たり利益)は長期的に連動性を有しており、当然のことながら株価も連動しています。デフレ期にはインフレの追い風が止むことで、名目GDPは停滞しEPS拡大の足かせとなりましたが、現在はインフレを追い風に名目GDPは600兆円程度まで拡大し、それと整合的にEPSも増加基調にあります。

  • 「インフレ対策には株式投資」と言われるのは、このように株価がインフレの追い風を受けることが背景にあります。新NISAが盛り上がりをみせている理由の一つかもしれません。

  • 年初の段階ではFRBが3月に利下げを開始するとの予想が支配的でしたが、今やその時期は6月にずれ込んでいます。それは米国経済があまりにも粘り強いため、インフレ再燃を懸念するFRBが様子見姿勢を貫くとの予想があるからです。

  • 事実、インフレを決定する最も重要な要素である賃金は、ここへ来て上昇率の鈍化が一服しています。2月の平均時給は前年比+4.3%となお高く、再加速の兆しもあるため、政策当局としてはこれを看過できないでしょう。

  • とはいえ、コロナ期の特徴であった労働参加率の低下は概ね解消しており、労働市場における需給の逼迫は和らぎつつあります。例えば、求人件数や、転職活動の活発度合いを示す自発的離職率は低下傾向にあり、後者に至ってはコロナ期前の水準に回帰しています。これらを踏まえ、筆者は現時点で賃金インフレが再燃する可能性は低いと判断しています。

藤代 宏一


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